東北旅行5

峠の一軒宿・追分温泉

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  気仙沼からの帰り道、追分温泉に泊まりました。ここは、柳津の一つ手前の「陸前横山」という駅からタクシーでしか行けない山の峠にある一軒宿です。この山の中には、イヌワシが生息するそうです。峠道を下ると北上川の河口へ出ます。葦原が続く美しい場所が、去年の震災時の津波でほとんどやられてしまったと聞きました。

 枝を傘のように広げた樹齢数百年というケヤキの樹の向こうに見えるのがお宿です。かつては、湯治客が訪れる宿だったのでしょう。外見は昔の木造の校舎のようで、トイレや洗面所は共同と今風の旅館とはずいぶん違いがあります。廊下を歩いていると、人見知りをする私でも、ついすれ違うお客さんだれにでも、「おはようございます。」と声が出てくるような雰囲気を持ったお宿です。部屋の引き戸に来た場所と苗字と人数がわら半紙に書かれて張ってあるのも面白いと思いました。

 ようやく一般の観光客や湯治客も泊まれるようになってきたようですが、去年から今年にかけて、震災の被害を受けた人の宿になったり、復旧にあたる自衛隊・ボランティアなどに宿舎やお風呂の提供をしてきたそうです。フロントで働いていた女性は、「私も被災者なのですが、こちらで働けるようになりました。」と言っておられました。支所が津波で壊滅したせいか情報がなかなか発信されず、あまり知られてこなかった北上町の津波の被害も大きく、追浜湾から押し寄せた津波で、200人くらいの児童数の小学校なのに85人もの子供たちが亡くなったと聞きました。

 追分温泉の夕食

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  宿の自慢は、 カヤの木で作ったお風呂(カヤの木は、大変貴重な木だそうです)と食事です。

 夕食は、部屋へ運んでくれます。食事によって宿代が変わるらしいのですが、5700円から9700円まで1000円刻みだそうで、今回私は、7700円の真ん中にしました。空いたお皿には、あとから揚げたての天ぷらが届きました。右手の奥のふた物には、マグロとカツオとタコと甘エビのお刺身が入っていたのですが、その奥の氷がのった皿にも、お刺身が・・・・殻付きの岩ガキ、ウニ、アカガイ、大きなツブガイと近頃なかなかお目にかかれないクジラまで出てきたのには、感動してしまいました。

 朝食は、広間でいただきますが、この日は、特別手に入った北上川で取れたシジミの味噌汁が出ました。津波で川底の土砂が荒れてシジミは、ほとんど手に入らなくなったそうです。大きくてきれいな実のシジミでした。ローカルな食べ物がいただけてとても幸せでした。

 長ーいこぼれ話

  わずか2時間しかいられなかった気仙沼ですが、大失敗付きの心温まるできごとがありました。

 帰りのバスの時間の10分前には市役所前のバス停についていながら、この時刻のバスが市役所前には止まらないことに5分前になってやっと気づきあわてました。

 通りかかったタクシーに飛び乗り駅まで乗せてもらい、バスには間に合ったのですが、タクシーを降りるときにもう一つの荷物がないことに気づき、「あーあっ。お土産をバス停に忘れてきちゃった!」と、口走りました。すると、 タクシーの運転手さんが、「おれが行ってきて次のバス停に届けてやるよ。」と言って、バスの運転手さんに「次の農協前に持っていくから。」と声をかけています。なんと親切な運転手さん!その言葉だけでも十分ありがたかったのですが、約束の農協前には来ていませんでした。バスの運転手さんも気にしてくれているのでゆっくりと運転してくれていましたが、次のバス停でも出会えず、その次のバス停でも出会えず、(きっと見つからなかったのかな)と、もうあきらめていたら、4つ目のバス停で対向車のタクシーの運転手さんが、バスの運転手さんに向かって 「今、荷物を持ってバスを追いかけているから待っていてくれ。」と大声を出しています。無線で連絡がいったのでしょう。

 待つこと3分。ミラーで後ろを確認したバスの運転手さんが、「お金を用意して渡した方がいいですよ。」 と私に助言してくれました。私もそのつもりでいましたが、財布からお金を出してバスを下り、後ろに停まったタクシーの運転手さんから確かに荷物を受け取りました。お礼を言って、お金を渡したのですが、取ってくれません。それ以上バスを待たせるわけにも行かず、その場でお別れしました。改めてお礼ができるようにバスの運転手さんにタクシー会社の名前を聞くので精一杯でした。

 私には、気仙沼でお土産を買ってお金を落とすことくらいしかできないと思いながら、本当にお土産を落としてしまい、まるで笑い話のような大失敗をしておきながら、気仙沼の人情深さと熱い気持ちをいただき、胸がいっぱいになりました。

 そのタクシー会社は、「なすやタクシー」 忘れられない名前です。