JIKE STUDIO

針穴写真 「半過去でつづるパリ」  

              田所美恵子      空き缶で作った針穴写真機

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 今日、横浜市の青葉区寺家町のふるさと村にあるJIKE STUDIOでやっている針穴写真の展覧会へ行って来ました。青葉台の駅周辺は、ずいぶん賑やかでびっくりしましたが、バスに乗って住宅街や団地を越えると、里山風景が目の前に広がります。田んぼに稲が青々としていて、トンボが飛び交っていました。小さい時に田んぼのそばで生活したことがあるせいか、田んぼの匂いを嗅ぐとなんだかほっと安らかな気持ちになります。

 針穴写真は、対象によっていろんなサイズ、いろんな形の空き缶を使って撮影します。円形の缶をわざと回して写したり、中のネガを波打たせてセットしたり、いろんなセットをすることで思わぬ効果が生まれるそうです。大事なのは、0,3mmのまっすぐな針穴を開けるところで、これがちゃんとしていないと光が屈折してうまく写らないのだと聞きました。

  それから、光線が強いか、弱いかで露出時間が変わるそうです。室内の静物だと30分くらい置いておくものがあるかと思えば、外で撮る風景などは、15秒くらいのものもあるそうです。   セーヌ川の橋の上の人物は、ちゃんと感光しないうちに動いたみたいで、ぼうっと写っている人がいたり、空の雲も風で移動するので、はっきりとした輪郭にならずモワーッと広がって見えたり、そこに半分過去の姿が写し出されるということなんだろうと思います。オペラ座のロビー階段の写真がありましたが、人がたくさん行き交っていたはずなのに、この写真のテンポからするとあまりにも早く動くので、だれも写っていないという写真が出来上がっていました。

 ショーウィンドーを撮った写真がありましたが、間近なものにも遠くのものにも同じようにピントがあってしまうという針穴写真の特徴から、陳列してあるものも背後の建物も両方が一つの画面に写し出されていてとても不思議な空間になっていました。

 針穴写真の半過去は、柔らかい繭にくるまれた世界のような気がしました。