マルセイユを舞台にした、ある夫婦の心あたたまる物語

キリマンジャロの雪

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 ロベール・ゲディギャン監督のフランスのマルセイユを舞台にした映画です。この映画は、{ヴィクトル・ユゴー}の長編詩「哀れな人々」(子ども5人を抱え、生活苦にあえぐブルターニュの貧しい漁師夫婦が隣家の孤児2人を引き取るまでを描いている)から着想されたそうです。  題名の方は、ヘミングウェイの短編小説から取られたものではなく、1966年に大ヒットしたシャンソンのタイトルから取られたものだそうです。聞いたことはありませんでしたが、映画の中でも歌われ、エンディングにも流れる切なくてメロディックで懐かしい感じのするシャンソンでした。

 物語:マルセイユの港で働くミシェルは、労働組合の委員長として活動してきた闘士、妻のマリ=クレールは、看護士の道を志しながらもそんな骨太の夫を支えてきた。生活は慎ましいけれども、娘も息子も結婚し、3人の孫もいる幸せな夫婦である。ところが、不況で、リストラを受けざるをえなくなり、組合は、20人のリストラを敢行。その中に、ミシェルも入ってしまう。

 家族や友人や働いていた仲間によって結婚30年を迎えたこの夫婦を祝うパーティーが行われる。お祝いにと贈られたのは、アフリカへの航空券、そしてカンパのお金。(写真は、そのシーン) 

 ところが、ある日ミシェルのうちに強盗が押し入る。その時に、この航空券もお金もそしてクレジットカードまで取られ、ミシェルはけがをする。

 押し入ったうちの1人は元同僚でミシェルと同じようにリストラされた若者だということが分かる。若者は、母親が不在のために2人のまだ幼い弟を養っていた。事情が分かった後、ミシェルもマリ=クレールもどうしていいか悩みながらも、それぞれ行動を開始し、ある決断へと到達する。

 ところどころにちりばめられるマルセイユの海、港へ出入りする船。でも、そこには豪華な保養地としての南仏というより、庶民の暮らしが切り取られています。しばし夢見たキリマンジャロの雪山も消えてしまいますが、それよりも大事なものを得ることができたこの夫婦は幸せなのかもしれません。

 ヴィクトル・ユゴーと聞いて、「レ・ミゼラブル」(銀の蜀台部分)を幼少の頃読んだことを思い出しました。人を信じ思いやるということが難しくなってきている現代社会すが、久々に、人を思いやる温かい気持ちがふつふつと湧き上がり、こちらも幸せな気持ちになりました。