ある児童養護施設の記録映画

映画「隣る人」(となるひと)

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 監督は、刀川和也、そこにいなければ決して撮れなかった映画です。とある児童養護施設にカメラを入れ、8年間撮り続けたドキュメンタリー.。 児童養護施設は、いろいろな事情で親と一緒に暮らせない子どもたちが、親代わりの保育士と一緒に暮らしている施設です。 

 マリコさんという保育士さんが、担当しているのは、生意気盛りのムツミと甘えん坊のマリナ。2人は、親から無条件で与えられるはずの愛情を求めて、しばしばマリコさんを競って取り合い、ケンカをすることもしばしば。一緒に食事をして、一緒に本を読んでもらいながら布団に入って寝て・・・という生活の繰り返し。母親よりも密度の濃い関係をしばしばカメラは見つめています。

 そんなある日、離れて暮らしていたムツミの母親が再び一緒に暮らそうという思いをかかえて施設にやってきます。しばらくあっていない母親とムツミのぎこちなさやマリコさんの心配、そして母親を無条件で受け入れることができず戸惑いを隠せないムツミをも、カメラは切り取っています。

 10歳の誕生日、施設でムツミはみんなにお祝いをしてもらいます。友だちや、保育士さんからお祝いの言葉をもらっている場面。マリコさんは、「悪いことをしたら、叱ることもあるけれど、どんなむっちゃんも大好き。これからもずっとむっちゃんのそばにいるからね。」と言います。

 無条件でいつまでもずっと受け入れてくれる人が自分の隣りにいることがこの子供たちだけでなく、人には必要なんだと強く感じました。「隣る人」ということばは、たぶん造語だと思いますが、人との関係を言い当てる素敵な響きの言葉だと思います。 壊れた絆を取り戻そうとする人々の懸命に生きる生活を、そばに寄り添ってとり続けた優しいまなざしを感じる映画でもあり、普遍的な人と人との関係を見つめなおす映画でもありました。