「家守綺譚」 「冬虫夏草」 

家守綺譚 (新潮文庫)

冬虫夏草

 

 この二冊の本は、京都のブロガー、こみちさんが

山科へ行った時のコメントで薦めてくれた本。

 

 梨木香歩さんの名前は知っていたが、

本は、まだ読んだことがなかった。

 でも、巻末の著書を見ていくと、

西の魔女が死んだ」と「くるりのこと」は、

作者を意識せず、映画だけを観ていたことがわかった。

 私の心のどこかにこの人の作品を受け入れる素地があったようだ。

 

 「家守綺譚」は、山科の毘沙門堂があるあたりが舞台。

 私は、山科へは行ったことがないので

どんなところか実際見たことがないが、

話の年代はかなり昔を想定しているようだ。

 

 綿貫征四郎という駆け出しの文筆家が主人公。

 学生時代の友人が、湖で急死、亡骸は浮かびあがることがなかった。

 その友人の親から 古家を管理してほしいと頼まれ

山科にあるこの古家に住むことになった。

 

 山科の季節と主人公の日々の暮らしを描く。

 暮らしの中には、不思議な体験も出てくる。

 

 疎水から水を引いた池もあり、

自然に伸びたきった木々に覆われた庭がある家だ。

 

 時々、亡くなったはずの友人も床の間の掛け軸の後ろから現れたり、

疎水から引き込まれた水に乗って、生き物も紛れ込む。

 

 その季節季節に咲く野生の植物の名前が

 短い章を形作っている。

 植物好きとしては、興味深い構成だ。

 

 それに、カッパ、ムジナ、タヌキが時折自然の流れで顔を出し、

見える世界と見えない世界が 

時々交差するところが面白い。

 

 この話の中にゴロウという犬が出てくる。

 この賢い犬が長い間、帰ってこなくなる。

 

 人づてに’その犬が鈴鹿山脈の山の中にいたという情報がもたらされる。

 その山の中には、イワナが営む宿があるという興味深い別の話にも惹かれ

 綿貫征四郎は、鈴鹿の山深くに入って行く。

 この紀行文が

2冊目の「冬虫夏草」である。

 

 この話は、見知らぬ山の道を辿って行くので、

いっしょにドキドキしながら草深い道を分け入る。

 

 昔は、都との往還に使われただろう道、

鉱山の閉鎖と共に また草が生え、わからなくなった道、

昔は、みんな山道を歩いたのだから、

山の中には 実にいろんな道がある。

 

 どこかに道がつながっているように、

絶えずどこかに水の音が聞こえ、川が流れている。

 そして川の水を管理している竜の存在が語られ、

神様を祀る神社もそこここにある。

 

 山に住む人たちは、木を細工して食器を作るもの、

わずかな畑でこんにゃくを作るもの‥‥‥

 ほとんどが貧しい暮らしをしているが、

素朴で、人情味にあふれ、旅人が誰であれ受け入れてくれる。

 

  山で暮らす人たちのまわりには、人間とどこか違う形状をしてるが、

人間と同じようなイワナや、カッパも極当たり前に出てくる。

 

 この話は、ファンタジーの世界の話ではあるが、

山の奥深くに入り込んでみたら、こうやっていろんな生き物と

共存しているのが不思議ではない気がしてくる。

 

 この山の生きとし、生けるものすべてが 

やさしく包み込まれるようなそんな話である。

 

*「冬虫夏草」というのは、

主に、チベットや中国北部の高山帯に生息するコウモリ蛾に寄生し、

冬は虫の姿で過ごし、夏になると草になると考えて

名づけられたキノコの一種。

貴重なものなので高値で取引されているそうだ。

 

  この話のキーワードになっている。