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人間、最後はひとり

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 先日、40年も前に一度会っただけの知人と

会うことができました。

 我が家の下の息子が生まれた病院で同じ日に出産し、同じ病室で過ごした

というだけの間柄です。

 これまで、1回も会うこともありませんでした。

 わずか数日同じ部屋で過ごしただけでしたが、

どこか気持ちが通じ合うようなところがあったのでしょう。

 今ならさしずめアドレスの交換というところでしょうが、

その頃はそんなものもなかったので、

住所と名前の交換をして、お別れしました。

 

 それからほぼ毎年、年賀状だけが行き交うことになりました。

 数年前、ご主人を亡くされ、かなり落ち込んでいらしたので、

心が落ち着いたら、横浜へいらっしゃるようお誘いしていたのですが、

ようやく、前へ足を踏み出そうという気持ちになったという手紙をもらいました。

 

 ここ数年どこへも出かけていないから、

今の私には、横浜は遠すぎるというので、

私がその彼女の住まいの近くへでかけることになりました。

 

 駅の改札口には、同じ年頃の方が数人いらしたので

すぐにはどの方かわかりませんでした。

 何せ、写真をもっているわけでもなく、

お互いぐっと年をとっているのですから 分からないのが当然です。

 こういう時には、携帯電話が役に立ちます。

 電話をすると、そのうちのお一人がさっそく動いて電話を取りました。

 まず、会えてほっとした瞬間です。

 

 梅雨時なので、雨に降られることを予想していましたが、

カンカン照りの暑い日でビルの間を強い風が吹く日でした。

 レストランでランチをした後は、熱中症になりそうだったので、

涼しい部屋でお茶を飲みながらずっとお話ししたのみのデートでした。

 

 走馬灯のごとく、この数十年を駆け足でめぐったのですが、

映画の話、旅の話、洋服の話などしているうちに、

似たところがたくさんあるのに気づきました。

 

 後日ハガキをもらい、彼女は、不思議な気がした と書いていましたが、

私も今まで知っていた友だちと話しているような錯覚に陥りました。

 時々この人と会っていたような気持ちのつながりを感じたのです。

 

 話の中で、話題になった本がこの「人間、最後はひとり」です。

 作者の吉沢久子さんは、66歳でご主人を亡くされ、

それ以降30年間、一人でひたすら前向きに暮らして

現在96歳になられます。

 お姑さんとご主人を見送ってからは、

やっと自分のために何かをすることができる自由を知ったそうです。

 この本は、今の私たちにぴったりの本だったのです。

 

 他人との付き合いでいうと、

 吉沢さんは、欲望が少ない方ですが、

食に関しては欲張りだと自負なさっています。

 食べ物の話は、他人の悪口には発展しないし、人を傷つけることもなくて

いいのだと おっしゃっています。

 食べ物に関しては全く同感だなと思いました。

 

 気になったことのもう一つは、これからは家族のみならず

今までかかわりのあった人たちとのお別れも多くなってくるはず。

 その時を乗り越えるには、

ふだんから楽しみをたくさん持つことだそうです。

 小さな喜びを一つ一つ拾い集めては、

自分の生活を生き生きとしたものにしていくとができるからです。

 それは、テレビの好きなドラマを見ることでもよし、ボランティアとして

人のために自分を生かすということでもいいし、庭で草花を育てるのでもいい。

 

 お会いした彼女は、今回の手紙でやっと伝えてくれましたが、

いっしょに生まれた長男さんをご主人と同じ年に亡くされたそうです。

 息子さんの件は、特にダメージが大きかったので

今まで言えなかったのだと思います。

 

 彼女も、ヨガをすること、赤ちゃんへの読み聞かせ、絵を描くことと

いくつか自分の楽しみを以前から持っていました。

 それを再開し、自分を立て直していっているようでほっとしました。

 

 彼女に何とか元気になってほしいと思うと同時に、

自分も、吉沢さんの示唆に富むお話のように、

これからの生き方を学び、少しずつ準備をしていかなくてはならないなと

思ったしだいです。