今、ドキュメンタリー映画がおもしろい

 私は、テレビを見ないせいか、時々映像を観たくなる。

 最寄りの駅から3駅電車に乗ると、「ジャック&ベティ」という名画座があるので

桜木町の封切館へは出かけず、もっぱら名画座へ通う。

 といっても、ハリウッド映画のような宣伝費をかけない地味な映画は

この名画座やもう一つ伊勢佐木町にある「シネマリン」でやることが多い。

 月に2回から4回くらい観ているので、この半年で15回くらいになる。

 そのうちの3分の2は、ドキュメンタリーものだ。

 毎回記録したいとは思うのだが、映画は、ネタバレとか言われそうで

ついしり込みする。

 それと年寄りなものでパソコンに向かう時間が長いと

体調が悪くなるのも原因だ。

 久しぶりに今日は、この映画について一言。

 

 「世界でいちばん美しい村」。

 このフライヤーの写真にまず惹かれたのだ。

 無数の星がこんなにきらめき、雪山が連なるヒマラヤの山々

その懐に抱かれたこの静謐な村の写真は、観るものを否応なくこの場所へと誘う。

 

 この映画は、報道写真家「石川 梵」が撮った初監督作品だ。

 2015年に起きたネパールの大きな地震震源地となった村へ

彼は、いち早く報道写真を撮るために入った。

 カトマンズの被災のようすはかなり報道されていたが、

震源地にはまだだれも入っていない時だった。

 地震の2日後には日本を立ち、3日後には、カトマンズへ入った。

 カトマンズから北西へ77キロ。

 ジープで10時間、さらに麓から崩れた山道を10時間登って

ようやく到達できる標高2200mのラプラック村だ。

 

 村があったところは、地震で簡素な家々はほぼ壊滅状態。

 地盤が緩んでいて村にとどまるのは危険だということで

4000人の村人の大半は、そこからさらに1時間半登った標高2700mの高地で

キャンプ生活に入っている。

 

 当初ジャーナリストとして、報道することが目的だった石川さんが

このキャンプ地で14才のアシュバドルという名前の少年と出会い、

通訳はいるものの言葉が直接通じないこの少年と心を通わせることになる。

 当初5日分の食料とテントしか持って入っていなかったので

この村のようすを世界の人に知らせること、そしてまた再び会いに来ることを

この少年と約束して下山することになる。

 なぜ報道写真を撮る予定で入った石川さんが、

わずか数日の滞在期間で少年とそんな約束を交わし、

そしてこの映画を撮ることになったかは、映画を観てもらえばよくわかることだ。

 

 第1章は、この少年との出会いと少年の家族を通した村の暮らし。

 第2章は、この医者のいない村の唯一の看護師ヤムクマリのこと。

 第3章は、この村の宗教は、「ボン教」。

   村の1年の生活を通して村人のボン教を軸にした祈りを映し出す。

 

 彼の映像は、写真家であるせいか、動画なのにひとコマひとコマが

写真の連続のように丁寧に撮られているような気がした。

 

 この映画は、人としての在り方、関わり方の根っこを思い出させてくれる。

 私たちから見れば、村人たちは、不自由な悲惨な生活を送っているのだが、

愚痴をいうでもなく、自然と寄り添い助け合いながら過ごす村人を見ていると

この映画のタイトルがつけられた意味が分かるような気がした。

 

 最後に音楽にも触れておきたい。

 この壮大なヒマラヤの山々の空写映像の音楽は、

当初オーケストラでと考えていたということだったが

 ネパール人の「バンスリ」奏者ビノード・カトゥワル氏(スペインで活動)

が、ボランティアで作曲したそうだ。

 ヒマラヤの空気をつかみ取るような深い音色の演奏だった。

 もう一つ、エンドロールで演奏されるのは、東北のデュオ「はなおと」が

「んだなはん」を英訳した歌詞で歌っている。

 東北とネパールが結びつくことを願って歌ったそうだ。

f:id:yporcini:20170727135657j:plain

 この映画を観終わった後、石川監督と

脚本家でもあり女優でもあるという「近衛はな」さんのトークがあった。

 SNSなどを使って宣伝してもらいたいとおっしゃっていたので、

遠慮なく写真を撮らせてもらった。

 監督は、今週は毎日のように映画館へ通って思いを伝えている。

 

 ふだんは買っていないプログラムもネパール支援のカンパの一助になるというので

今回は、買い求めサインもいただいた。

 

 石川さんのことは、今まで何も知らなかったが、 

東日本大震災の折にも翌日飛行機をチャーターし、

1番乗りで空写に挑んだ筋金入りのジャーナリストだと

プログラムの解説で知った。

 

 8月4日までジャック&べティで上映。

 その後は、東京都写真美術館で8月11日から上映があるようだ。