イーディ、83歳 はじめての山登り

 

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 年末に「家族を想うとき」というフィクション映画を久しぶりに観た時に、知った映画だ。ケン・ローチの作品は、世界中で起きているだろう家族を取り囲む社会のことを客観的に映し出している心痛む映画だったが、今回の映画は、私にももう少し時間があるなと思える希望の映画だった。先の映画と同様イギリスの映画だ。

 

 ロンドンに住むイーディは、83才。結婚した相手は、イーディが自由に出かけることなど許さない狭量な人で、家事と育児だけの人生を送ってきた。おまけに後半の30年間は一人で動けない夫の介護を続けてきた。

 

 夫が亡くなり、娘は家を売って老人ホームへ入ることをしきりに勧める。荷物の片づけをしている時に、すでに他界した父親からの絵葉書を見つける。絵ハガキの写真は、スコットランドにあるスイルベン山。ちょっとおもしろい形をしているその山にいっしょに登ろうと書かれてあった。

 

 行きつけのフィッシュ&チップス屋で、「今から追加注文をしても大丈夫?」と主人に聞くと、「今からだって遅くはないさ。」(Never too late)との声がかかる。その言葉に後押しされたように彼女は、ほどなく旅立ちの用意をする。ロンドンから夜行列車でスコットランドの北のはずれにある「インパネス駅」へ向かう。

 

 小さな町にあるスポーツ用品店で知り合った青年にガイドをしてもらうことになる。 簡単に人を信用せず、プライドの高いイーディだが、トレーニングを重ねるうちにガイドのジョニーとも心が通い合う。ジョニーの心配を受け入れず、どうしても一人で頂上を目指すんだとサポートをことわり頂上をめざす。

 

 山の上から見るスコットランドの風景は、北海道の東端のような趣を感じる。一面茶色の草地が続き、小さな島が点々と浮かび、空の色が刻々と変わる。流れ落ちる清流の輝き、木々の葉の匂い、流れる雲、すべてがイーディをよみがえらせていく映像のすばらしさ。自分の人生を取り戻すように一歩一歩力強く踏みしめる足取り。その息遣いまで聞こえてきそうな山登りだ。少しは山に登って苦しい思いもしたことがあるので、自然と涙があふれてくるのをとめることはできなかった。

 

 イーディを演じた女優、シーラ・ハンコックは、主人公と同じ83才だということもこの映画にリアリティを持たせる。私のように山登りが好きな年寄りにはお勧めの映画だ。最初に書いたように私にももう少し時間があるんだと勇気づけられる。