初秋の青森5

 青森市は、鉄道が開通し北海道へ渡る青函連絡船の港として発展した比較的新しい街。現在は、県庁所在地となっているが、弘前市を訪ねると青森県を代表する街は弘前市だということがわかる。

 弘前駅を降りると駅ビルがあってホテルがあって駅前にもお店があるけれども、本当の街はそこではないようだ。街中に歴史的な寺や明治期に建てられたような洋館も結構な数存在する。

 今回は、さわりだけの弘前市見学だが、見どころの多い街なのでまたゆっくり訪ねたい。かと言って、弘前城の花見の季節は観光客が大挙して訪れるようで、思い通りに旅をするのは難しい。

 案内所で地図をもらい駅から弘前城がある方へ行ってみることにした。お城の方に「藤田記念庭園」というのがあるらしく、そこでアップルパイもいただけるという誘惑もあって、市役所の前まで行ってバスを降りた。きょろきょろしていると、道の反対側にはお城の堀があった。皇居のとは違って浅い堀だ。

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 そこから歩くこと5分くらいで「藤田記念庭園」へ到着。「藤田記念庭園」と言っても、その藤田さんがどういう方か知らなかったが、日本商工会議所の初代の会頭だった人らしい。

 門を入ると、左手に洋館、右手に和館がある。

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 その洋館の1階にカフェがあって、そこで私はアップルパイを食べた。

 案内所でもらったアップルパイガイドブックには、市内のアップルパイ店が地図付きで掲載されているが、全部で44店あった。甘味、酸味、シナモンの3点について評価してあり、自分好みのパイに出逢えるように考えて作られている。

 この洋館では、そのうちの4種類がおいてあり、飲み物とセットでいただくことができる。私が選んだのは、これ。甘味が抑えられているというので選んだが、シナモンが効いてなくって物足りなかった。ちょっと生意気なことをいうと、やっぱり自分で作るのが一番だと思った。

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 少し元気になったので、この後和館へ入ってみた。玄関の天井に取り付けられたランプシェード。入ったところからこだわりを感じた。

 

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 庭から見た和館の全体。

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 広い前庭は芝生で覆われ、黒松の巨木が歴史を感じさせる。この建物の右手に見えるのが岩木山。借景として取り入れられているが、正面でないのがちょっと残念なところだ。

 このお庭のすごいのは、ここまでが高台部で、庭の通路を歩いて行くと、下にも広大な庭があり二段構えになっていることだ。

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 低地部から見上げると赤い橋の上の高台部から水が滝となって落ちているのが見える。山から自然に岩を伝っているように流れを構成した素晴らしい滝だ。

 青森でこんな見事な滝に出逢えると思っていなかった意外性もあってとても心に残っている。春の花の頃、秋の紅葉の頃も見てみたいものだ。

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 滝と反対の方に目を向けると池があり、手前に八つ橋がある。菖蒲が咲くころはさぞ色鮮やかなお庭になることだろう。ここからも借景の岩木山を見ることができる。

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 これが低地部の茶屋(松風亭)。お茶会や会議室に使われるそうだ。

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 まだ紅葉には早い季節だったが、茶屋のまわりのもみじはすでに赤く色づき、プロペラまで赤くなり飛んでいくタイミングを計っているようだ。f:id:yporcini:20200930125744j:plain

 もう一つ赤いものを見つけた。ヒガンバナである。暦の上ではだいぶ彼岸を過ぎているが、弘前ヒガンバナは今が盛りだ。

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 大きなザックを背負い、トレッキングシューズでずっと歩いていたので足も痛いし、疲労感も頂点に達していたので道の反対側の弘前城までは足を伸ばさず、ここから初めてタクシーを使って弘前駅へと向かった。

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 ここにも赤いものが。弘前城の迎えに市役所がある。その市役所前のポストの上の赤いリンゴだ。

 この旅で赤いもの、そしてりんごを何回見ただろうか。赤がキーワードの青森旅行も今回で終了。長いブログにお付き合いいただきありがとうございました。

 

初秋の青森4

 黒石のこみせ通りの道の駅前からバスに乗り、途中温湯温泉、落合温泉、板留温泉など川に沿って並ぶいくつかの温泉を経由して約30分、終点の虹の湖で下車。

 宿の最終マイクロバスが接続していてそこから約20分くらいかかります。八甲田の宿を9時過ぎに出て、青森駅弘前駅黒石駅まで電車に乗り、黒石からバスを乗り継ぎ、青荷温泉には午後4時半くらいに到着です。お迎えバスには私を入れて4人乗っていました。

 

 青荷温泉はやっぱり遠かった。今は車を使えばそんなに時間をかけずに来られるのかもしれませんが、山を登り下りしながら細い山道を来るので雪深い冬は車でもさぞ大変だろうと思いました。

 憧れのランプの秘湯、青荷温泉に到着です。

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 玄関の横にある地図です。この温泉は、本館のほか別棟が3棟、それに温泉も本館の内湯のほかに3か所あるので位置関係を頭に入れて移動する必要があります。

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 廊下も部屋もお風呂もランプの灯り。それだけで旅情を掻き立てられます。もちろんテレビもないし、充電なんかもできないし、電気は来ていないのかと思っていたら電気は来ているとのこと。トイレの灯りとウオッシュレットには電気を使っていました。

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 因みに私が泊まったのは、ふるさと館。バスで一緒になった若い女性と隣同士の部屋でした。懐中電灯を持たされ、ゴム草履をはいて本館を出ます。本館との間に川が流れているので、つり橋を渡ってふるさと館へ。

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 夜は、部屋のランプが1つあるだけですから、温泉から帰ってきたら後は寝るだけです。川のせせらぎの音だけを聞いて眠るというのもいいものです。

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 ここでも赤いものを見つけました。たぶん、ヤマボウシ

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 部屋の前にちょうどシュウメイギクのピンクの花がきれいに咲き誇っていました。

 

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 食堂のランプです。夜は撮れなかったので、朝撮ったものです。控えめなランプの灯りは、心もポッと照らし出してくれるような気がしていいですね。

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 夜の食事です。ランプの灯りなので、フラッシュをたかなければこんな感じでしか撮れません。岩魚の焼き物、きのこ、漬物、豆腐を使った揚げ物など質素ですが、この土地のものを使っていて好感が持てます。

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 一人で来ている人が4人集まっていたので、自然と自己紹介のような話をしました。4人の中ではもちろん私が最高齢。あと大学生の女性と二十代半ばの男性、それに人生半ばの男性。その男性は、弘前市へ仕事できたついでにここまで足を伸ばしたと言っていましたが、イワナの骨酒を注文。丼いっぱいの量だったので遠慮せずに飲むように勧められました。飲んだことがない私も湯のみに少しいただきました。岩魚の風味がお酒に移りいいものです。

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 夜が暗かったので、これは朝ごはんの写真です。魚はアユの甘露煮だったと思いますが、渋い感じの献立でした。私はこういうのが好きです。

 

 食事が終わってから、お湯に入りに行きましたが、どのお湯にも人がいなくて暗い中でちょっと怖いようでした。中に1人で入っている人は人がはいってくるとびっくりするみたいです。

 隣の部屋の学生さんは、バイトをしてお金が貯まったので来たのだと言っていましたが、入学してからずっとリモート授業だったのが、いよいよ10月から対面の授業が始まるのだといっていました。               

 明日はもう帰宅しなくてはならないようで、せっせとどの温泉にも入ってお湯を満喫しているようでした。

 遠くからせっかく来た温泉ですので、本当はもう1泊したかったところですが、私にも用事があって朝10時のバスで宿を出て弘前へと向かいました。

 (つづく)            

青森の旅3

 遙々青森までやってきたので、もう一か所どこかへ行こうと思って今回は、前から行ってみたかった青荷温泉へ行くことにしました。

 近頃やたらに温泉に入りたくなってきたのです。昔は旅へ出たら、歩き回ることしか頭になかったのに・・・・老体が要求しているのだろうと思います。

 

 地図では酸ヶ湯から車で下ってくれば、おそらく2時間もあれば辿り着けるところだと思いましたが、電車とバスを乗り継いでぐるっと回っていくので、時間がかかります。

 酸ヶ湯温泉の宿のバスに乗り青森駅まで出ましたが、弘前方面の出発時刻まではだいぶあったので、駅の周辺を歩いてみました。

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 右手にワラッセというねぶたの展示館がありましたが、ゆっくり見ている時間もなさそうなので、左手にあるAファクトリーという白い建物に入りました。

 そのファクトリーは青森のリンゴを使って作るお酒、アップルシードルを醸造するところでした。今風の佇まいで中には工房のほかカフェや土産物売り場があり、おしゃれなものも売っているので若い人に受けそうな場所だなと思いました。

 国内を旅していると駅前の通りのお店のシャッターが閉まっていたㇼ、古びていてお客さんもまばらなんていうところをたくさん見てきているので、青森にもこんなに都会的な建物があるんだなとちょっと驚いてしまいました。

 道の反対側に植えてあった姫リンゴの実もナナカマドに負けないくらい赤く色づいていました。

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 時間になったので東北線のホームへ行くとリンゴ型の箱が柱についています。おそらく発車ベルを鳴らしたりするものが収められているのだと思いますが、地域の活性化を図ろうとJRも工夫をしているのだと思いました。

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 見苦しい写真ですみません。

 弘前までの車窓から見た岩木山です。富士山のようにすそ野を長く引くスケールの大きな山だと思いました。ちょうど稲刈りの時期に重なっていたようで、黄金色の稲の穂先が重く垂れていました。電車に乗れば、弘前までは45分です。 

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 弘前で弘南電車に乗り換えです。この電車で終点の黒石まで行きます。

 昼頃だったのに高校生が乗っていて意外に思いましたが、途中に高校などいくつか学校があったのでこの電車も何とかやっていけるのかと思いました。

 約36分で到着です。冬になると雪も降るので、弘南電車にも「ラッセルくん」というお相撲さんキャラのラッセル車が出動するそうです。先ほどホームページを見てびっくりしたところです。

 黒石には古くからのお店が集まっている「こみせ通り」というのがあるのですが、駅からのバスも間遠です。インフォメーションで地図をもらい重い荷物を担いできょろきょろしながら30分以上歩いて行きました。

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 こみせ通りです。こみせというのは、新潟など雪国の「がんぎ」と同じ屋根付きの歩道のことです。屋根付きの歩道は、かつては雨の日も雪の日も濡れないで買い物ができた優れものだったはずですが、200mくらいで切れてしまうので、ずいぶんあっけない通りだなとちょっとがっかりでした。

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 この通りに2軒の酒造がありました。そのうちの1軒。中村亀吉酒造さんです。今まで見た中で一番大きな杉玉が吊るされていました。あまりに巨大でびっくりです。観光客もまばらで閑散としたこみせ通りでした。

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 黒石で有名なのが、いつぞやB級グルメでグランプリをとったことがあるという「黒石つけ焼きそば」。お昼にはそれを食べてみようと思ってきたのですが、その筋で有名なお店はその日お休みだということで、通りにあった「蔵」という名の喫茶店に入って作ってもらいました。

 それは、焼きそばに汁をかけてあるという感じのものです。蔵の女主人に聞くと、スープを何で取るか、具材に何を入れるかで店の違いが出てくるのだそうです。麺も焼きそばにしては太くて、この地域独特なんだと聞きました。

 

 この旅であまり人と話をしていなかったので、ほかに誰もお客さんはいないし、30分くらい話し込んでしまいました。

 私よりいくつか年上の女主人は、若い人がこの土地から出ていくことで地域に活気がなくなってきたんだとしみじみ話されていました。

 

 店の壁にかかっていた長い柱時計がボーンボーンと低い音で時を告げました。ふと「大きなのっぽの古時計」の歌を思い出しながら店を後にしました。

 

(つづく)

初秋の青森2

 夜になると雨が降り出してとても寒かったのですが、朝は、雨も止み晴れとはいかないまでも曇り空でした。

 この日は、ロープウエーを使って山頂公園駅からどこの山も目指さず、池塘を巡りながら宿まで下っていく計画でした。去年怪我をしているので、今回は慎重にならざるを得ず、下りだけなら何とかこなせるだろうという心づもりでした。

 青森へ来る前々日までは、八甲田山は猛烈な風が吹いていてロープウエーが止まっていたのですが、この日は動いているとの情報でほっとしてロープウエー山麓駅へ向かいました。

 ロープウエーは、101人乗りのゴンドラです。

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 ロープウエーから下を見ると、下界は晴れている模様、青森市街地、それに青森湾陸奥湾)も見渡せます。窓の下をのぞくと木々の紅葉は、まだ進んでいません。

 山頂公園駅に到着すると、霧というか雲というかまわりのようすが全く見えません。それどころかものすごい風に煽られ立っているのも不安になるくらいでした。

 ロープウエーの駅があるところは風を遮るものがないので特にひどかったのだと思いますが、これじゃ怖くて歩けないではないかと思いながら、とりあえずレインコートなど身支度を整えて公園駅のまわりのゴードラインと呼ばれる遊歩道を歩きはじめました。

 木道に導かれるように、一周30分と一周1時間のひょうたん型のコースがゴードラインになっています。木陰に入ると先ほどの猛烈な風は止み何とか歩けそうな気がしてきました。

  ルート上にあった田茂萢(たもやち)湿原の展望台です。

 霧がかかりとても幻想的な風景でした。雲が少し切れると右の方に田茂萢岳という山がちらっと見えます。

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 ゴードラインは約1時間、そこから上毛無岱(かみけなしたい)へのルートに入り酸ヶ湯温泉への道を進みます。

 前日まで結構雨が降っていたので、この先の道はひどくぬかるんでいました。私の前を歩いていたご夫婦は、足元が十分でなかったので足首まで泥が入り込みとても大変そうでした。ご主人は、自分のペースでさっさと進んでいくのですが、奥様の方は、普通の運動靴だったので、私が持っていたトレッキングポールを一つお貸しして水たまりの深さを確かめて歩くといいと勧めました。

 私も転ばないようにと下ばかり見ていたので、道に飛び出ていた太い枝に気付かずおでこをぶつけてしまいました。本当に神経が行き届かないやつだとあきれました。

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 上は、ガマズミ、下はたぶんゴゼンタチバナ。ぬかるみの道を歩きながらもあちこちに実りの秋を見つけていました。

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 上毛無岱(かみけなしたい)は、天気もまだ安定せず見渡すことができませんでしたが、ぬかるみ道を抜け木道が階段になっているところを下りていくと、急に前が開け素晴らしい景色が広がりました。

 八甲田へは上毛無岱から下毛無岱(しもけなしたい)のこの風景を見たくて来たのです。幸運なことに空も晴れ渡りました。まるで天国のお庭のようです。(天国へは行ったことがりませんが、たぶん。)

 続きの木道は、画面右側に白く見えています。

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 小さな池塘があちこちに点在し、黄金色の草紅葉のところどころに赤や黄色に色づいた灌木も見えています。秋が深まるともっともっと色鮮やかさが増してドラマチックな光景に出逢えるのだと思います。

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 木道を歩いて行くと、池塘に映り込んだ白い雲がミツガシワの葉を際立たせていました。向こうに見えるのはおそらく八甲田の最高峰の大岳だと思います。

 下毛無岱は木道があって歩きやすいはずですが、湿原から染み出る水で木道はまるで川か水路と化していて、長靴が必要なくらいでした。

 流れになっているところでは滑らなかったのに、水がないところですべってしりもちをついてしまいました。

 結局足の踏ん張りがきかなくてなってきているのでしょう。年を取りたくないけれど取ってしまったので仕方がありません。大けがをしなかっただけ儲けものです。

 

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 ちょうどこのキノコの季節だったのか、歩く道々何回も見つけました。このきのこナメコだと思いませんか。キノコを試せなかったのが返す返すも心残りです。

(つづく)




 

初秋の青森1

 すごくすごく久しぶりのブログになりました。

 皆様の所へもうかがえず申し訳ありません。

 暑い夏が過ぎてから・・・・、母の後始末がもう少し終わってから・・・・、ドライアイがもう少し収まってから・・・・年が明けてから・・・・、いろいろ理由をつけながら今日になってしまいました。

 結局年を取って根気がなくなってきたということでしょうか。

 写真を削除する前に旅の記録だけは残しておきたくて、重い腰を上げページを開きました。

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 (酸ヶ湯の駐車場前のナナカマドは、しっかりと赤い実をつけていました。)

 9月の末、こちらはまだまだ暑さが残っていましたが、北へ行けば秋を感じることができる気がして、青森県へ足を伸ばしました。

 青森へは、東日本大震災の3年後宮城県から海岸線を北上して八戸へ行った時以来です。

 いや、正確にいうとその前にも高校の修学旅行で初めて北海道へ行った時にほんの少しだけ足を踏み入れています。

 その頃は、まだ青函連絡船を使わなくては北海道へは渡れなかったので、青森駅で列車を下車し通路を伝って連絡船に乗っていたからです。

 今回、青森で列車の待ち時間があったので、青森港周辺を歩き、係留してあった「八甲田丸」を見ることができました。

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 船の中のことはほとんど覚えがなく、デッキで風に吹かれながら友人たちとおしゃべりに興じていたのだと思います。約4時間の船旅は、小さくなっていく本州とだんだんはっきりと姿を現してくる北海道を眺めつつ、旅への期待をただ膨らませていたような気がします。昔昔のお話になってしまいました。

 

 東北の旅は、鉄道もバスも本数が少ないので、下調べをしっかりしておかないとその日に着けないなんてことにもなりかねません。

 今回は、東京駅朝一の新幹線に乗って一路新青森へ。新青森から在来線で青森駅、駅を降りて急ぎ足。宿のお迎えバスで酸ヶ湯温泉まで行きました。バス代がタダになるし、列車の接続もよくて昼前には、宿に着くことができる効率的な手段です。

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 ちょうど日曜日だったせいか、えっ と思うほど車が来ているし、玄関にはたくさんの人もいました。ほとんどは、日帰り入浴の方のようでしたが。

 青森といえどもコロナ禍では検温・消毒は必須です。宿の方は、スリッパ、館内の手すりなどの消毒、温泉への人数を制限するために着替え用の棚を三分の一くらいに減らしたり、スリッパを各自ビニール袋に入れて使うようにしたり、本当にご苦労されていたように思います。

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 夕食です。これも前半、後半、時間制でしかも指定席になっています。

 この後、混浴の千人風呂へいざ!というところですが、近頃はどこの温泉でも女性専用の時間を作ってくれているので、8時から安心して温泉へ入れました。

 ポスターでは本当に千人くらいは入れそうだなと思うくらいの広さに見えますが、実際は百人くらいじゃないかなと思うくらいのお風呂でした。

 こんな時に使う言葉ではないような気がしますが、「百聞は、一見にしかず」。

 とても温まるいいお湯です。

 (続く)

「花のあとさき」ムツばあさんの歩いた道

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 この映画の舞台は、埼玉県秩父市吉田太田部楢尾。

 今でこそ麓にダム湖ができたため車が通れる道がこの山間の集落まで通っているが、

その昔は、山道を歩いて行くしか方法がなかったような山奥である。

 

 NHKが取材を始めたのが平成13年。

 戸数5戸・住人9人・平均年齢73歳の集落だった。

 (一番住民が多かった時は、100人を超す住人がいたそうである。)

 その時から18年間にわたり、撮りためた映像を映画として編集した作品だ。

 

 この集落に住む小林ムツさんは、夫の公一さんと一緒に丹精込めた段々畑に花や花木

を植え、畑を一つ一つ閉じてきた。

 植えた花木の数は、一万本以上。

 一番春早く咲くのは、フクジュソウ、それからレンギョウ、そしてツバキ、サクラ、

ハナモモ・・・・ちょうど今頃は青いアジサイ、秋になるとモミジが赤く紅葉する。

 一つ一つ名前を上げるムツさんの顔が童女のようにほころんで見える。

 

 この山間部では、炭焼きと養蚕が主な仕事だった。

 ムツさんも寝る間も惜しんで働いたという。

 この山間の集落で働くということは並大抵のことではなかっただろうと想像できる。

 

 子どもの世代は、もうみんな山を下りてしまっているので、

自分たちが働けなくなったら、もうここに住む人はいなくなる。

 

 ムツさんは、「今までお世話になってきた畑が荒れていくのは申し訳ない。せめて花

を咲かせて畑を山に還したい。」

 と、その世話を続けてきた。

 「花はかわいいよ~。」

 「花が咲くと何もかも忘れてしまうがね。」

 だれも住まなくなっても、ここにやってくる人がこの花たちを見てくれれば

嬉しいと語っていた。

 

 畑を山に還すという言葉を聞いた時に、その謙虚な言葉に深く心を揺さぶられた。

 

 少し前に観た「グリーン・ライ~エコの嘘~」の映画の冒頭で見せられた場面はインドネシア熱帯雨林を焼き尽くしたばかりの土地、そこここにまだ煙が立っているのだ。

 住んでいた原住民を追い出し焼き払った土地に環境に優しいというパームヤシを植えるためだ。

 エコとうたわれた食品の多くに使われているパーム油は、こうして森林を焼き尽くして生産されるものなのだ。焼き尽くされた森林は、もう戻ってはこない。

 人間の強欲を見せつけられたばかりだったので、この謙虚な言葉はとても心に染みる。

 

 平成31年にはすべての住人はこの集落からいなくなってしまったが、

その春もサクラ、ハナモモ・・・、集落をピンクに染め上げ、桃源郷のようだ。

 ムツさんが思い描いていたように、ふもとの方から車で花を見にやってくる人の姿が

あった。

 

 この集落の人たちは、自分たちが持っている山林を世話をしていたが、

放置されている杉の木もたくさんある。

 木の世話がされていないと大雨で木が倒れ、災害を引き起こすと心配されていた。

 国の政策で植えさせておきながら、関税をかけないで安い外材を輸入するようにな

り、日本の木は売れずに放置されている。

 こういうことに目を向けないでいいのだろうか。

 毎年のように繰り返される大雨による水害、災害が繰り返されるたびに故郷を捨てる

人が出てくるのではないかととても心配になる。

 

 声高に何かを叫ぶ映画ではないが、日本の山間部の集落の置かれた姿を赤裸々に写し

ている映画だと思う。

 

 横浜では、ジャク&ベティで17日まで公開されている。 

 

 

7月になりました。

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 ハンゲショウといえば、この植物しか知らなかったが、もう一つ半夏生と言われる草があることを知った。

 

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 カラスビシャク

 道端に生えている。五月に通った時には、苞の中の花は、黒い色をしていたはずだが

もうすっかり黒い色は見つからなかった。

 

 このカラスビシャクの根っこが漢方の「半夏生」という薬になるというので、

ハンゲといえば、昔はこちらのカラスビシャクの方が通りがよかったのかもしれない。

 

 地方によっては、畑や田んぼの畔などに生えるこの草の根っこを集めて漢方薬として

売りに行ったというので、「ヘソクリ」などというあだ名も付いたていたのだという。

 

 そんな半夏生も過ぎ、七夕も過ぎ、ブログも書かなくてはと思いながら、

今日になってしまった。

 

 私事ですが、母が6月に他界しました。

 

 2月に誤嚥性肺炎で緊急入院をして、4月には次の病院へ転院。6月に入り

 医療行為も可能な介護施設を探して申し込みをした翌日、誤嚥をして翌日急に容態が

変化して、とうとう帰らぬ人となった。

 今までも肺炎など入退院を繰り返してもびっくりするほどよくなるので、今回もと淡

い希望を持っていたが、今回はそういうわけにはいかなかった。

 

 敗戦の時は、母は一人38度線を越えて最後の引き上げ船で日本に命からがら帰ってき

た人だ。

 大正生まれなので、女が仕事を持てなかったことがとても悔しかったようで、私たち

には女も自分の力で生活できないとだめだとずっと言い続けてきた。

 

 父が早くに亡くなったので、後半は自分のやりたいことを結構やってきたが、最後に

認知症という病に捕まってしまった。

 認知症の末期は、口に入れた食べ物を上手に咀嚼し、誤嚥しないように食べるという

行為もできなくなってしまうのだが、それでも幼児に戻ったような笑みを浮かべること

があり、私たちもその笑顔に救われた。

 

 新型コロナの最中だったのに感染しないで見送ることができただけでも幸運だったと

言えるのかもしれない。