初夏の浜中町の旅 その3

 二日目、窓から見る湿原は白いベールに包まれている。

 朝食に下りていくと、宿主が先に伝えておいたここで見たいもの、やりたいことと天気予報を照らし合わせて行動日程を考えてくれていた。

 このあたりへ来る人は、ほとんどが車なので世話入らずだが、私は珍しく徒歩旅行なのでバスの便を考えてくれているのだ。まず、町内バスはウイークデーのみ、土日は、前日の夕方までにバスに代わるタクシーに連絡をして乗せてもらうしか手段がない。

 この日は金曜日なので、3日間のうち唯一町内バスが使える日だ。ということで、午前中は霧多布湿原センターへ行き、午後は岬の入口までバスが行くので霧多布岬へ行くのはどうかということになった。

 何せ一番近いバス停まで3キロおよそ45分かかる。そこから町内バスに乗る。町全体の地理感覚がつかめないので話を聞いても霧の中で雲をつかむような話だ。朝食後、3キロ先の新川十字路というバス停まで車で送ってもらった。

 

 霧多布湿原センター

f:id:yporcini:20210702122458j:plain

 四番沢という小さな川のそばにある。三階の窓から下に拡がる湿原を見渡せる。カフェがあるのでお昼を食べながら、あるいはお茶を飲みながら眺望を楽しめる。3階から見える西側の風景。海のそばまで湿原で、右側にうっすらと見える島は、「ケンボッキ島」(今は無人島だが、昔ムツゴロウさんが動物と一緒に住んでいたと聞く。)けっこう大きな島だ。

 

f:id:yporcini:20210702104340j:plain

 この日は、館内を一回りしてからすぐ前にある「やちぼうず木道」を歩いた。ゆっくり歩いても20分くらいの短い木道だ。

 

f:id:yporcini:20210702102500j:plain

 

 「やちぼうず」ってなに?

 真ん中に見えている枯草が垂れさがって上の方は、緑の葉が茂っているのが「やちぼうず」。スゲ類などの植物が冬の凍結で株ごと持ち上がり、春の雪解け水によって根元がえぐられることの繰り返しで形成されたもの。これは、道東の湿原にはよく見られるそうだ。

f:id:yporcini:20210702102811j:plain

 木道沿いに見えた花たちを紹介。

 エゾフウロ                 フタマタイチゲ

f:id:yporcini:20210702111535j:plain    f:id:yporcini:20210702102636j:plain

 本州の高山帯にもこれと似たハクサンフウロが有名だが、エゾフウロは、どこがどう違うのか勉強不足でわからない。いつもはかなげで美しい。

 

 フタマタイチゲは、裏高尾辺りで見られるアズマイチゲとかキクザキイチゲの仲間。茎の付け根から二本に分かれて伸びるのが名の由来。東京の旬は早春3月、北海道の旬は6月だ。

ワスレナグサ                エゾオオヤマハコベ

f:id:yporcini:20210704111955j:plain     f:id:yporcini:20210704112255j:plain    

 ワスレナグサに似ていると思ったが、ワスレナグサは、園芸種かと思っていたのですごくびっくりした。明治の頃、海外から園芸種として入ってきたそうだが、それが野生化したものらしい。冷涼な気候、湿性地を好むそうなので、ここは彼らにはぴったりの適性地。

 

 ハコベにもびっくり。ギザギザとしたまるでサギ草のような花弁。さぞ素敵な名前が付いているのだろうと学芸員に尋ねると、「ハコベです。」とつれないお言葉。正式名は、「エゾオオヤマハコベ」。つぼみの形を見ると、ああ、やっぱりハコベだ と納得。

 

 クシロハナシノブ

f:id:yporcini:20210702111223j:plain

 最後は、高貴な紫の上。宿主もこの時期一押しの花。花弁も3cm位。どこか桔梗の花にも似て楚々としているが、この辺りの皆さんにもてはやされるアイドルのようだ。名前がどこか演歌にでも出てきそうではないか。「クシロハナシノブ」お見知りおきを。

 

  こんなところに油が浮いている とたいていの人が思うらしい。私もええーっと思ったが、隣の立札を見て、湿地の大切さを知り、改めて自然が豊かであることの大切さを学んだ。

 

f:id:yporcini:20210702103058j:plain

 文字が小さいので、簡単に説明すると、油のようなものは実は鉄分なのだそうだ。

 この鉄分が川によって海に運ばれ、海草や藻を育て、植物プランクトンになり海の生き物を育てることになる。ここ浜中は、天然昆布の日本一の生産地といわれているが、この湿地がそれを支えているのかもしれない。

f:id:yporcini:20210702103050j:plain

 バスの時間を1時間見まちがえていて、カフェでゆっくりホッキカレーとアイスクリームと思っていたのに、残念!仕方なくバス停に向かった。

 バスを待っている間に、向いの林から面白い鳴き声が聞こえてきた。「アッキー、アッキー、ジジジジジジジ・・・・」、どうも蝉の鳴き声らしい。

 後日、またセンターを訪ねた折、学芸員に尋ねたら、予想通り「エゾハルゼミ」の鳴き声だっだ。

 「アッキー、アッキー」と本鳴きの前の序の部分が前首相のお連れ合いのお名前のようで、学芸員に聞くときもすらすらと出てきたのが自分でもおかしかった。

 (つづく)