「薬は誰のものか」(邦題)

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 この映画は、2013年にインドで製作されたドキュメンタリー映画

 こういう世の中を鋭く切り取った映画は、商業ベースに乗ることはないので

昨年の9月、版権、および翻訳、編集などの費用を生み出すために

翻訳制作プロジェクトが立ち上げられ、クラウドファンディングを通じて

資金が集められた。

 私は、旧い人なので、こういった新しいことになじみがないため

普通だと手を上げることはなかっただろうが

この時は、ちょっとした予告を見ただけで

この映画を早く世の中に出していかなくてはならないと感じて

ほんの少しだが寄付させてもらった映画だ。

 2月の2日に渋谷のユーロスペースの地下の劇場で

日本語版の完成記念上映会とトークがあり、参加してきた。

 

 この映画は、主に1990年代後半アフリカ諸国やインドなど世界の途上国における

何千万人ものHIV/エイズ感染者の苦しみを描いている。

 一時は、アフリカ南部(サハラ以南)では、5人に1人がエイズにかかり、

国が存続できるかというところまで拡がってしまったと聞いている。

 

 薬がなかったのではなく、欧米のグローバルといわれる医薬品企業の特許権のせいで

薬の価格が高額となり、貧困層には手が届かなかったのである。

 この時、1年に患者1人につき150万円以上の費用を出せる人はほんの一握り。

 薬があるにも関わらす、何百万人もの患者は、薬を飲むことができず

そのままなす術もなく亡くなっていった。

 

 こうした状況を打開するため、アフリカ、アメリカ、インドで

患者団体や活動家、ジェネリック医薬品企業が努力を重ね、

ようやくインドのジェネリック医薬品企業が一日1ドルという低価格で

エイズ治療薬を開発することができた。

 このジェネリック薬によって、大勢のエイズ患者が

命を落とさずに済むようになったのは言うまでもない。

 

 余談であるが、インドは建国の時にガンジー

自国で薬を作れるようでなければならない

と 力を入れてきたとのこと。

 それが、自国民だけでなく、世界中の貧しい人たちにとっても 

どれだけ役に立っているかと思うと、すごい人だったのだと改めて思う。

 

 昔話なら、それでめでたしめでたしになるはずなのだが、現実は厳しいものがある。

 大企業は、すぐさまWTO世界貿易機関)のTRIPS協定という

知的所有権を強化する貿易協定を使い、安価な薬の流通を阻もうとしたのである。

 

 アメリカの離脱によって漂流してしまったTPPばかりでなく、

あちこちで結ばれようとしている自由貿易協定もこれと同じ流れの中にある。

 貿易協定なので、関税の話だと思われるが、TPPでも最後までこじれたのは

この「医薬品アクセスと企業の特許権」の問題である。

 

 2月27日から昨日まで、RCEPの交渉が神戸で行われていたと聞いている。

 RCEP(東アジア経済連携協定)がマスコミは一切報道しないので、

小耳にはさむことすらないが、この協定の中では、

日本や韓国がアメリカと同じように特許権の保護強化や

「投資家対国家紛争解決(ISDS)」を提案したりしているらしい

 

 これがまかり通ると、カンボジアミャンマーラオスなど後開発途上国は、

ジェネリック医薬品の入手が困難になり、

また、ISDSで国家が提訴され、賠償金で国家予算がひっ迫し、

貧困から脱することがますます困難になるだろうと言われている。

 いつも犠牲になるのは、決まって貧しい国、貧しい人たちなのである。

 太っていくのは、いつも先進国といわれる国で、一握りのお金持ちなのである。

 この会議の内容もTPPと同様秘密交渉だということで、

交渉内容を明らかにしないまま進んでいるので、

・・・らしい としか語れない。

 

 (*RCEPとは、中国主導で、アセアン10か国と日本、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの16か国が参加している。)

 

 この映画は、同じクラウドファンディングで資金を集めた映画「この世界の片隅で」

とは違って、劇場での上映会はなかなか難しい。

 自主上映が行われるところを見つけて、

ぜひ観てほしいということで紹介させていただいた。

 

 おまけ

 昨日は、ひな祭りだったので、ちらしずしを作り、

先日デパートの金沢の不室屋の出店で買ったお吸い物でお祝いをした。

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 お吸い物は、ひとひら という名前で湯を注ぐと花弁の中から小さな花麩と三つ葉が

出てくるものだ。

 ちょっと優雅な気分で締めくくりたい。