近頃読んだ本

 先々週、虫に刺された後が化膿して皮膚科にお世話になることになってしまった。

 左腕だ。化膿したところを治療するためにステロイド剤の軟膏が塗られ、水分を吸収する薬剤も合わせてガーゼで押えられ、その上にガーゼをあて絆創膏でとめ、ネット包帯でくるまれ、まるで焼き豚状態。シャワーを浴びてもいいがぬらさないように。包帯はとってはいけないといわれ、汗をかかないように注意するようにとのこと。

 この時期外出すれば汗をかくのは当たり前。要するに外にも出るなということで、1度通院のあとヒマワリを見に行って、映画を観ただけで、ふだんの運動も外出も避け、ひたすら部屋にこもり、読書に費やした。

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 四月にパキスタン旅行から帰ってから、急に「深夜特急」のパキスタンの部分を読み返したくなり、それを読んでから、同じく沢木耕太郎の「旅する力」を読むことになり、その後、続いてこの「一瞬の夏」を読んだ。

 この本は、沢木耕太郎がまだルポルタージュ作家として売り出した頃、同じく若いボクサーだった、カシアス・内藤に関心を持ち、密着しながら書いていった作品である。

 カシアスとは、モハメッド・アリの前のカシアス・クレイの名前を取ったものだ。連戦連勝を続けていたカシアス・内藤、ある戦いに敗れてから後、敗れ続けそのあと4年間ほとんどボクシングをしているのかどうかもわからない状態になる。

 4年間のブランクの後、カシアス・内藤が再起するという情報が入り、4年前に見た夢ともつかない衝動にかられ、作者沢木耕太郎、それにトレーナーのエディ・タウンゼント、写真家の内藤利朗と四人がこの再起にかかわっていく。

 いつか自分が納得できる試合をしたいという思いを抱えていたカシアス・内藤、その思いを遂げさせたいと思う作者たち、それぞれがその戦いに夢をかけている一年あまりを描いている。

 572ページの分厚い本だが、ぐんぐんと読み進められる。

 この本の写真は、おそらく写真家の内藤利朗さんのものでないかと思われるが、夕方のボクシングジムの光線とボクサーの肉体の一部を切り取っている装丁も含めて気に入っている。

 沢木耕太郎は、この本を書く前に書いている、「敗れざる者たち」という本の中でも、クレイになれなかった男としてカシアス・内藤というボクサーのことを書いている。この本は、その後を引き継いで書いたものだ。

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 「敗れざる者」の中には、長距離ランナーの遺書、三人の三塁手・・・・など、力を持ちながら、表舞台で思うように生きられなかったスポーツ選手たち(馬もいる)を描いている。

 沢木耕太郎の独特の視点を感じ、共感しながら読んでいる自分がいた。

 「檀」は、ご存知のように、檀一雄がなくなってから、妻のヨソ子さんに一週間に1度インタビューしながら書いたノンフィクションだ。

 沢木耕太郎が一人称で書いたものではなく、妻のヨソ子さんが書いているような形をとっているところが普通の文体とは異なったところである。

 あとがきの後にある解説のところで一人称でもなく、二人称でもなく、三人称でもなく、それをすべて包括した四人称とでもいったらいいのかと・・・と書いてあったが、不思議な文章だった。

 男性が、自分と檀一雄を対比して読んでみてどんな感想をもらすかとても興味のあるところだ。

 本は、だいぶ読んだので、そろそろ思い切って汗をかいて運動したり、働いたり、シャワーを浴びたり、外出したりしたいものだ。