「駆ける少年」

 イラン映画「駆ける少年」

   f:id:yporcini:20130208095508j:plain                               昨日、いつものJACK&BETTYで映画を観ました。

 イラン映画で、監督は、昨年西島秀俊が主演した「CUT」という映画を撮ったアミール・デナリです。現在も日本で映画を撮っているそうです。

 イラン映画といういのは、イスラムの国ということで表現にかなり制限があると思われますが、子どもを主人公にすえた秀逸な映画がたくさんあります。

 「友だちのうちはどこ?」「白いふうせん」「運動靴と赤い金魚」・・・監督は違いますが、子どもを撮っているという点では同じです。どの国にでも心当たりのある子どもの豊かな感性が表現されている普遍的な人間を描いた映画で、子供用の映画というわけではありません。

 今回の映画は、とても力強い作品でした。

 主人公のアミルという少年は、11歳。両親がいないので港の近くに座礁して古くなった船に1人で住んでいます。ゴミ捨て場で、ビンを探したり、外国船から捨てられたビンが流れてくるのを待ってタイヤに木の箱をつけた入れ物で他の少年と一緒にビンを集めて売ったり、氷を買ってバケツに入れ水売りをしたり、靴磨きをしたりいろんな仕事をしながら生活をしています。

 こんな暮らしの中で、子どもたちは、集まっては自分の力を試すかのようにかけっこをします。時には、貨物列車が通過した後を追いかけ、一番後ろのデッキにだれが一番早くタッチできるか競います。みんな自分の力の限りに走ることが好きだと話しているのも印象に残ります。

 アミルは、好きなものがあって、一つは港の近くを航行するたくさんの船です。特に真っ白い船が通るとありったけの声で手をふりながら叫びます。もう一つは、飛行機です。近くに飛行場があって、金網をよじ登り、飛行機に触ったり、飛行機が飛び立つ時に飛行機に向かって思い切り手を振ります。

 お金があると古い雑誌を売る店で車や飛行機の写真のついた外国の雑誌を買います。船の自分の部屋で本を見ている傍らを一羽のひよこが歩き回っている姿も気になりました。

 ある日、本屋のおじさんが「ペルシャ語の本の方が安いし読めるだろう。」と声をかけたら、アミルは、「字は読めないんだ。写真を見るんだからいいんだ。」と答えたけれども、自分は字が読めないことに気がついてしまいます。

 字を覚えたいという強い衝動に駆られ、学校に出かけて行って、学校へ入れてくれるように頼みます。「大きいから一年生に入れるわけにいかないが、夜の学校ならいい。」と言われ、猛然と字を覚えることに突進します。まさに突進するという感じで、時には貨物列車の姿を目で追いながら、時には海の岩の上で波の音に負けないくらいの声でペルシャ語のアルファベットを唱えます。

 アミルは、水を売っている時に飲んだ後お金を払わず自転車で逃げていったおじさんを許さず、ずっと追いかけ続けてとうとう捕まえ、お金を払ってもらいます。文句を言うわけでもなく、ただ手を出してお金を要求します。お金を払ってもらった時の満面の笑顔は、なぜ?と思うほどの笑顔です。

 理不尽なことには、とことん納得できるまで追及するところなど、忘れてしまったものを呼び起こしてくれます。

 最後のシーンは、このチラシの場面です。天然ガスの燃えている場所を火のあるところと表現していましたが、まさに火が燃え盛る前に置いたドラム缶の上に大きな氷の塊りをおいて、それに向かって少年たちが走って、前を行くものを押しのけ倒して取るというかけっこをしますが、その真剣な姿にはただただ心打たれました。

 たかがかけっこです。その勝者に金メダルが用意されているわけでもなく、何か代償が与えられるわけでもないのです。暑い中を自分の限界まで走ったという思いと冷たい氷で体を冷やせるくらいの話です。

 この映画、来週一杯J&Bでやっています。