私は、テレビを見ないので、時々映画を無性に観たくなる。
私の御用達の映画館は、名画座「ジャック&ベティ」。
ここのところご無沙汰だ。
名画座なのでほとんどは、都内のロードショー館から
ひと月以上遅れてやってくる。
今日は、先日まで岩波ホールでやっていた「緑はよみがえる」を観た。
エルマンノ・オルミ監督といえば、「木靴の樹」、「ポー川のひかり」が
日本で公開されている。
今回の作品は、オルミ監督の父親の体験をもとにして作られている。
第一次大戦の折、お父さんは19才でヒロイズムに駆られて志願した。
運よく帰還できたけれども、ことあるごとに戦争で失った戦友を思い
よく涙していたという。
オルミ監督が、そのお父さんが涙した意味を映画で問うた作品が
この「緑はよみがえる」だ。
撮影監督は、息子さん、プロデューサーは、娘さんと
一家で取り組んだ作品となった。
イタリアアルプスのアジアーゴ高原、雪で覆われた塹壕に目と鼻の先に陣取っている
オーストリア軍と対峙していた。
零下20度にもなるという過酷な環境、1日にスープいっぱいと一切れのパン
塹壕ではインフルエンザも蔓延している。
楽しみは、家族からの手紙だけ。
谷間からいつ打ち上げられるわからない迫撃砲で死ぬかもしれないという
恐怖の中で生活している。
そんな兵士たちの姿をまるでモノクロのフィルムを使っているように
極力抑えた色調で映し出す。
唯一色が感じられるのは、満月の夜の空と月、
月の光に映し出されたアルプスの山。
本当に静謐という表現がぴったりだ。
志願してきた若い中尉が途中から指揮をとることになる。
想像していた戦争とはあまりにかい離していたことを目の前にして、
母親へ宛てた手紙に、
「愛する母さん、一番難しいことは、赦すことだ。
人が人を赦すことができなければ人間とは何なのでしょうか。」
と 綴る。
冬は、雪に覆われた高原も雪が消えると緑の草で覆われ、
そこで何があったのかもわからなくなる。
そこで起こったことは伝えていかなければならないこと。
まさに、この題名に込められたことをオルミは映画作りを通して
自分の子どもたちや若い俳優など
次の世代へと繋げようとしたのではないのだろうか。
上映会の後、配給会社の方が日本上映に際してオルミ監督にインタビューを
してきた様子を写真を元にお話ししてくださった。
最後に、日本公開に合わせてメッセージが送られたことが紹介された。
「現在の日本は、ほかの大国のようになったけれども
日本は、先の大戦で一番苦痛を味わった国のはず。
日本には、命の大切さ、とりわけ若い人たちの命を考えてほしい。
そして、武力を持つのは簡単だけれども、
それは平和へ向かってなんの解決にもならない。
平和は、一人一人が望んでいかなくては守れないものだ。」
正確ではないので、知りたい方は、下記を参考にしてください。
(*you-chub エルマンノ・オルミ監督メッセージと検索すると出てきます。)
84才のオルミ監督の言葉は、重い。
1時間半くらい、しかも塹壕のシーンだけだが、
何のために、だれのために、一番一緒にいたい家族や恋人と離れ、
命を落とさなければならないのかが凝縮された映画だ。
この映画をとりわけ若い人たちに観てほしいと
私自身も願ってやまない。