「ローマ法王の休日」

 先日ニュースで、ローマ法王コンクラーベ(法王選出秘密選挙)が行われ、新しい法王が決まったとの話を聞いて、去年の10月の末に観ていた映画を思い出しました。

 ローマへ旅行したときに、観光としてヴァチカンを訪れたことがあるだけで、宗教的にも縁がなく遠い話のはずなんですが、今回はこの映画を観ていたので、なんだか映画の様子がダブっていやに身近に感じたものでした。映画を観るといろんな効用があるものです。

 それとこの映画の監督がナンニ・モレッティで、「息子の部屋」という映画を観ていたというのもあったかもしれません。

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  この選挙は、世界の各地からの80歳未満の枢機卿の中から選ぶというもので、コンクラーベに入ったら、外界とは遮断されます。3分の2以上の票を集める必要があるので、今回もなかなか決まらず、5回行われてやっと決まったとニュースで知りました。

 1回ごとにシスティーナ礼拝堂に取り付けた煙突から煙を出して、決まらないときは、黒い煙、決まったときは白い煙がだされる約束になっているそうで、サン・ピエトロ広場に集まった大勢の人たちはそれを見て一喜一憂するようです。

 この映画の中では、枢機卿みんなが

 「神様、一生のお願いです。どうか私が選ばれませんように。」

 などと、自分がなるのは避けたいと思って祈っているのです。

 何回かの選挙の後、本命と思われる人でなく、ダークホースのメルヴィルが新法王に選ばれてしまいます。私には、枢機卿がこぞって自分がならないように思っていたというのがまず意外で信じられませんでしたが、そういう設定が人間的でとてもおもしろいと思いました。

 外の広場で待つ圧倒的な信者に着替えを済ませた後、バルコニーに出て就任の挨拶をしなくてはならないのですが、ダークホースであったためなのか、メルヴィルは、あまりの責任の重大さに押しつぶされパニック状態となり、ヴァチカンから街へ逃げてしまうのです。

 もちろん、この失態がもれないようにいろんな言い訳をしながら、ヴァチカンの事務局は、捜索人を街へ送り、必死で探すと同時に、就任の挨拶を引き伸ばしを図ります。その言い訳の期間、実際はいないのに、いると思わせる工夫がいろいろとおもしろおかしく描かれています。

 メルヴィルは、街の中で、いろんな人と接しながら、人生とは、信仰心とは・・・と考え、法王の存在意義について問い直します。

 ヴァチカンに戻ったメルヴィルがバルコニーから発信するメッセージはいかなるものなのかは映画を観て確かめてもらいたいです。

 今回も児童への性的虐待などが明るみに出るなど世界中で失態続きのカトリック界のようで、改革が問われるとのこと。

 今回選ばれた本当の法王も一度、自分の身分を隠してメルヴィルのように、庶民の声に耳を済ませてほしいものだと思いました。

 監督のナンニ・モレッティは、脚本を書き、監督をし、あろうことか心理学者としてヴァチカンに送り込まれる先生の役で出演もしています。なかなか二枚目の監督でした。

 それにしても大胆でコミカルな脚本です。ヴァチカンの中のロケも行われていますし、よく許可されたとそれにも感心しました。 

 新法王は、初めて中南米から選ばれたそうです。スペインやポルトガルが持ち込んだカトリックなのに、いまや世界の信者の4割が中南米にいるというのですから、選挙の結果は必然でもあったのでしょう。

 今回選ばれた法王は、アルゼンチンの枢機卿で「フランチェスコ1世」と名乗るそうで、イエズス会から選ばれたのも初めてだそうです。ヨーロッパのどこかの国から選ばれることがほとんどで、ヨーロッパ以外から選ばれたのは、1200年前のシリアの枢機卿以来だというのも驚きでした。

 北アメリカのカトリックの信者がかなり増加していて、米国やカナダの枢機卿の意向を無視できない状況だということもあり、5回の選挙でどんな駆け引きがあったのだろうと思ったときに、この映画のことが鮮明に思い出されてきました。

 もう、だいぶ前の映画ですが、面白いので、興味のある方は、ビデオでも、DVDでも楽しんでください。