「東ベルリンから来た女」

 

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 先日観た映画です。

 原題は、この女性の名前 Barbara ですが、まず日本の題名を考えた人は正解だなと思いました。それは、とりもなおさず、この女性が何らかの理由により左遷されたことを表わすからです。

 時代は、1980年。

 この年から9年後ありえないと思っていたベルリンの壁が崩壊したのです。今からかれこれ24年も前になってしまいますが、私も本当にびっくりしました。あの歴史的なことが起こりうるとはきっと予想もしなかったのでしょうが、この女性は、西ベルリンにいる恋人ヨルクのところへ行きたいと思って、移住申請を出したがために撥ね付けられただけでは済まず、東ベルリンのエリートから秘密警察の監視つきでバルト海に面した田舎の町の病院に赴任することになったのです。

 映画の画面は、ほとんどが曇り空。木々が大きく揺れるような風が強い場面も出てきます。灰色のトーンで画面は進み、時に明るい日差しも感じられる場面も差し込まれてきますが、画面の構成がしっかりと計算つくされています。 

 病院の中の様子も、宿舎のようすも逐一監視され、報告されるわけですから、疑心暗鬼になるのは当然です。映画を観ている方も冒頭から誰かがどこかで見ているのではないかと主人公に同化していくので、ある意味サスペンス映画に近い感じになります。

 西側からその恋人が会いにきたり、お金を届けたりするのは、全部秘密裏に行われるので、誰かを通じ、秘密の場所を媒介にしてことが運ばれていきます。

 このチラシの写真の十字架の場所は彼女の隠し場所で、何回も出てくるので印象的です。病院と家の往復をチェックしていた秘密警察が帰りが遅いとすぐに家の捜索に入ります。すべての荷物を調べるだけでなく、女性が一人必ず入り、身体検査も行われます。

 新しい病院に赴任し、誰もが自分を監視しているのではないかと表情を崩すことがなかったバルバラでしたが、誠実に患者に接するアンドレという医者と一緒に仕事をするうちにアンドレの人柄に心を開いていきます。

 いろんな患者がいますが、この映画のキーとなる若い女の子が出てきます。

 作業所と呼ばれる収容施設から脱出を試み、何日も森の中に隠れていたためにマダニにさされ、監視員に捕まり病院へ運ばれてくるのです。アンドレは、血清を自らの手で作り、この子を助けます。バルバラは、もうあの作業所へは帰りたくないというこの女の子を何とか助けたいと思うけれども、よくなればまた仕方なく作業所へ返さざるを得ないのです。

 やがてバルバラは、アンドレのやさしさにほだされ、好きになって行きます。こういう誠実な医者と一緒に仕事をしていくのもありかなと思い始めるのだけれども、西側への脱出の予定の日は刻々と迫ってきます。

 いよいよ、バルバラが西側へと脱出する手はずが整い、今夜決行という夜、また、この女の子は脱出し、バルバラの家にやってきます。

 バルバラは、ある決断をします。

 緊張し続けた映画の最後のシーンは、とにかく素敵でした。

 ジャック&ベティでは、15日まで上映しています。