この映画は、料理家でもあり、作家でもある辰巳芳子さんの料理を通しての生き方を描いたドキュメンタリーです。
辰巳芳子さんが病床の父親(晩年、嚥下障害で普通の食べ物が口からとれなかった)のために工夫を凝らして作り続けたスープがきっかけで、このスープは、命のスープと呼ばれるようになりました。
日本の風土が生み出す食の恵みをていねいに作るスープが、今、家庭や病院へと広がっています。
特に、辰巳さんの鎌倉の教室には、病院の医者、看護婦、介護関係の人などが勉強にこられているのが印象に残りました。
このスープを口にした人がみせる何ともほっとした安堵感に似た表情を見ると、辰巳さんのスープがただのスープではなく、命のスープだといわれるのがよく分かります。
今はやりの「簡単即席」の反対を行く手間隙を惜しまない料理です。
辰巳さんは、スープを作る野菜たちをとてもていねいに扱いながら料理していきます。
料理教室では、度々
「野菜が嫌がるようなへら使いをしてはいけない。喜ぶようにしなければいけません。」
という言葉が聞かれました。
料理の過程で、作る人が注ぐ食べ物への思いや、食べさせる人への愛情がなければできない料理です。
辰巳さんは、野菜や米を志を持って育てている全国の生産者との結びつきもすごく大事にしています。志というのは、もちろん安全で美味しいものを生み出そうとしているということです。
日本の風土が育んできた食物、特に米、大豆は、これからも日本国内で自給していくことがとても大事なことだと言われています。
忙しかったことを理由に、「簡単即席」に頼り、出来合いのもので間に合わせることも多かったことを省みて、少しは、手をかけて原材料から作るよう努力をしていますが、辰巳さんの筋の通った生き方を目の当たりにして、この「いのちのスープ」を作れるようになっておきたいと思いました。
誰かのいのちに寄り添うことができるかもしれないからです。
この映画は、横浜では10月の11日まで、Jack&Bettyで上映されています。