「ある海辺の詩人ー小さなベニスでー」
舞台は、ベニスの南側にあるキオッジャという島。
この島は、アドリア海の魚介の上がる大きな漁港で漁師を生業としている人たちがたくさん住んでいる島だ。この島のオステリア(お酒を出すカフェ)に集まる男たちの一人にベッピがいた。
ベッピは、この島へやってきてから30年が経ち地元住民として暮らしているように見えたが、旧ユーゴスラビアがふるさとで、心のどこかに孤独感をかかえている。
一方、このオステリアの経営が中国人の手に渡ってから、中国人のシュン・リーが店員としてやってくる。彼女は、息子をふるさとの父親に預け、単身イタリアへ出稼ぎに来ている。借金をかかえている。それを返し終われば息子をイタリアへ呼ぶことができるので、必死で働く。
この二人がオステリアで出会う。
年齢も違うし、言葉も不自由だが、お互いに故郷の話をしたり、家族の話をしながら、異国の地で過ごす孤独感を癒していく。
二人をつなぐ糸は、詩。
ベニスが好きだというだけで、この映画を観ようと決めたのだが、キオッジャは、期待を裏切らなかった。
旧市街は、ベニスのように運河が街を通り、漁師たちの船が停泊している。ラグーナといわれる潟に出ると、漁師が網の手入れをしたりする小屋がぽつぽつと建ち、海の向こうにはヨーロッパアルプスの雪をいただく山々が見える。
ベニスと同じように、大潮になると運河の水位が上がり、道路まで水が上がって、お店の中まで浸水してくる。
そんな詩情あふれるロケーションの中で展開する二人の静かで温かい交流を描く映画である。
今週の金曜日まで、名画座 Jack&Bettyで上映中。
「長老(ラビ)の猫」
7月のパリ祭に合わせて、横浜がフランス月間を6月から7月にかけての一ヶ月展開。このアニメーション映画上映は、フランスをイメージしたイベントの一環として行われた企画である。
このほかにもフランスのアニメーション映画「アーネストとセレスティーナ」、短編映画、それに、馬車道に東京藝術大学院映像研究科アニメーション専攻の修了作品の上映も合わせて行われた。
長老の猫は、本邦初公開のアニメーション映画。
舞台は、1920年代のアルジェ。ユダヤ教長老の飼い猫スファールは、面白い猫で、長老の娘ズラビアに恋をしている。
その猫がある日うちで飼っていたオウムを食べてしまったことから、急に人間の言葉をしゃべりだす。
なかなか賢い猫で、長老が娘から遠ざけようとするので、必死でユダヤ教を学び始める。
この後、ユダヤ教のロシア人(旧ソビエト)の青年、ロシア人の通訳として連れてこられた男、イスラム教の長老、それに猫とロバがアフリカのエチオピアをめざして旅をする場面も展開する。
1920年代のアルジェは、フランスの植民地であったわけで、カフェに入ろうとすると、ユダヤとイスラムは、店に入れてくれなかったり・・・一見、のどかな話の中に、そんな宗教がらみの内容がこのアニメには盛り込まれている。
フランスのアニメーションは、ヨーロッパでは随一、世界でもアメリカ、日本についでの生産国ということで、アニメ人口は急増しているそうである。
Jack&Bettyでの上映は、終了しています。
「拝啓 愛しています」
人生の黄昏時の男女の交流を描いた韓国映画。
マンソクは、妻に先立たれ、息子の家族と住む。仕事を退職し、牛乳配達をして小遣い稼ぎをしている。
ある寒い冬の朝、オートバイで凍った急坂を登っていく。集めたダンボールを入れたリヤカーを引いて下っていく女性イップンが、すべって転んだところに出くわす。
イップンを手助けするところから、毎朝お互いが出会いをどこかで楽しみにする。
ぶっきらぼうでおよそ女性に優しい言葉をかけられない古いタイプのマンソクだが、イップンは、その心を感じ取ることができる優しい女性だ。
イップンは身寄りがなく独り暮らし。
そのイップンをいつも見守り助けてくれている駐車場の管理人がいるが、彼には長年連れ添っている認知症の妻がいる。
マンソクとイップンの恋模様を縦糸に、管理人の夫婦愛を横糸にお互いの交流を優しいまなざしで描いた映画である。
英語の題名は、「Late Blossom」。
自分も同じような年齢となり、こうした残り少ない人生を数えながら過ごしていく映画に心惹かれる。
Jack&Bettyでは、上映が終了しています。