少女は夜明けに夢をみる

 

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 一昨日は、みなとみらい小ホールで知り合いの声楽の発表会を途中で抜け出し、この日で最終日だという映画をジャック&ベティで観てきた。すごい風、それも北風の強い日でランドマークの横に係留されている日本丸の旗もビュンビュン巻き上がり、動く歩道を胸元を抱くように急いで通り過ぎる。

 

 知人より「いい映画だよ。」と前々日に聞いたばかりだったので、前知識もなく出かけたが、話通りだった。

 映画は、「少女は夜明けに夢をみる。」イランの映画だ。

 イラン映画といえば、1990年ごろに日本でも公開になったアッパス・キアロスタミが子どもを主人公にした映画を何本か観たことがあるが、それ以来初かもしれない。 今回はドキュメンタリー映画だ。

 強盗、殺人、薬物、売春などの罪で捕まった少女たちが収容されている更生施設にカメラを入れたものだ。撮影許可を取るまでに7年の歳月を費やしたそうである。

 たいへんな罪を犯したとはいえ、貧困のために盗み、親に強要されて薬物の売人をやらされたり、父親のひどい仕打ちに耐えかねて父親を殺したり、叔父からの性的虐待があったりと 決して本人だけの問題ではない。貧困が少女たちの人権を奪っているのだ。こうしたことは何もイランばかりでなく今や世界のどこででもありそうな話である。

 一人一人隔離されているのかと想像していたが、大きな部屋のまわりにベッドがずらっと楕円形に並び、真ん中に絨毯が引かれ、そこに集まって食事をしたり、時には遊んだりする。外部から隔絶されているとはいえ、集団で暮らしている部屋の中は意外に温かい。

 少女たちは、監督のインタビューに涙を流して答える場面も多だあるが、カメラが回っているにも関わらずコップをマイク代わりにして歌を歌い、周りの少女たちも手をたたき、一緒に歌い、踊り出す。雪が降った日には、中庭で雪だるまを作ったり雪合戦に興じる。

 監督は少女たちと長い期間を通して面会を繰り返し、少女たちとの距離を縮め信頼を得たからこそ撮れた映画だと思う。こんなにも少女たちに心を開かせることができる監督の人柄にひどく感心した。ドキュメンタリー映画の監督さんというのは、人間性が色濃く出る。

 

 「夢は?」と聞かれ、ある少女は、「死ぬこと。」と答えた。まだ15才くらいの少女から出てくる言葉だ。

 そんな絶望的なことを考えている少女たちの収容施設なのに、どこかあっけらかんとした安らぎが漂っている。言いたいことを言っているにも関わらず、心の奥に流れる連帯感のような空気が流れているからではないだろうか。ひとり、またひとり裁判所からの判決を得て、施設から出て行く様も描く。あんなに家族の元へ帰るのは嫌だと拒否していた少女が嬉しそうな顔をして家族と帰って行く。

 少女たちは、夜明けにどんな夢を見ているのか、語る場面はないが最後のシーンが物語っているような気がした。

 

 近日上映作品のフライヤーに気になる映画が2本、1本は「PRISON CIRCLE」日本の刑務所にカメラを入れたドキュメンタリーだ。

 もう1本は、「娘は戦場で 生まれた」シリアの戦場で生まれた娘に故郷を知らせるために撮ったドキュメンタリーだ。

 2本とも楽しみにしている。