講演会が終わって、庭を散策しました。
有名な「臥竜梅」です。
低い姿勢で、竜が這っているように見えるところからついた名前のようです。
下には、水仙が咲いていましたが、葉がのびきってもう終わりだよと言っているようでした。
この観梅の期間だけ、そばにある簡素なあずまや「初音茶屋」で
お客さんに麦茶をただで振舞っていました。
かつては季節を問わず、訪れる人には、振舞われていた湯茶だったそうです。
三渓さんを訪ねてきた芥川龍之介やインドの詩人タゴールも飲んだそうです。
温かいお茶を出されて、ほっと息がつけました。
旧矢箆原家(やのはらけ)住宅(飛騨地方の合掌造りの民家)
午後四時、茅葺の高い屋根は、すでに半分以上が日陰になっていました。
萱葺きの屋根を彩るように、白梅の花が咲いています。
中に入ると、囲炉裏の前に、五穀豊穣を祈る餅花が飾られています。
お正月は過ぎてしまいましたが、囲炉裏のそばにこの餅花があるだけで
暗い室内がパッと明るく華やかな印象になります。
座敷には、三月三日を前に、お雛様が飾られていました。
これは、奥の座敷にあったひな飾りで、大正期のものだそうです。
薄暗い座敷なので、お雛様のお顔の白さが際立ちます。
そういえば、母から伝わった大正期のひな飾り、私と妹も毎年飾っていましたが、
妹の娘の誕生とともに妹のところに行ったきりになってしまいました。
今頃、どうしていらっしゃるのでしょうか、あのお雛様は。
陽がかなり傾いてきて、旧燈明寺(京都の廃寺から移築)の三重の塔の右側から
オレンジに色づいた光が射しています。
たくさんのカラスが山の方へ向って飛ぶ姿を見ていると、
夕焼け小焼けの歌が自然と出てくるような気がしました。
白梅のカーテンを通して、三重の塔がぼうっと夕焼け色に染まり始めました。
入口近くの池の水路も夕焼け色に染まり、
紅梅白梅が見送ってくれているかのようでした。
池の水面には、間もなく山肌に沈み込もうとしている大きな太陽が映り込み、
木の枝のシルエットが黒く揺らいでいました。
静かで穏やかな夕暮れです。
ここで突然食い気に替わります。
三渓園の桜道の入口のパン屋さんで
この季節だけの限定品、梅アンパンを買ってきました。
五個に切れ目が梅の花弁、
ピンク色の餡で、ちょっぴり梅の香りがします。
梅見の余韻が、舌に残ります。