映画というのは、自分の日常が代わり映えしない時、しんどいことが続いた時など
私にとっては、手っ取り早く気分を切り替える特効薬のようなもの。
7月は、いろいろ悩みもあり、体の調子も悪く落ち込んでいたので
4本の映画を観た。
(一度行くと前後になっている2本を見てくるのが習い性)
一番の気分が上がった特効薬は、コメディータッチで展開するイタリア映画、
◇「神様の思し召し」。
神の手と呼ばれるような完璧な手術を行う医者と
ちょっと見は、とても神の道を説く人に見えないハンサムな神父が主人公。
主人公の医者は、長男が医学の勉強を止めて神学を志したいと言い出したことから
パニック状態となる。
父親は、長男がこの神父の影響を受けているとキャッチし、神父との接近を試みる。
自分の腕で病気を治すことができるプライドの高い医者と
病気は治せないが心の悩みを解く道筋をつけていく神父。
この二人が徐々に距離を縮めていく。
深刻な内容を笑いに変える映画でもあり、
人生の深いところを軽快なテンポで描いた映画でもある。
見終わった後、爽やかな気持ちになる映画だった。
◇次は「シアタープノンペン」
珍しいカンボジア映画、しかも女性の監督の映画だ。
カンボジアの歴史には、どうしても外すわけにはいかない
クメールルージュの時代の辛い過去が下敷きに出てくる。
主人公の女子大生ソポンは、バイクを駐車している廃墟のような映画館の中で、
クメールルージュがプノンペンに侵入してくる前の未完の映画を見ることになる。
その映画を最後まで仕上げるためにソポンが動き出す。
映画の主人公の女優がソポンにそっくりであることから
今は病床にある自分の母親がその女優であったことに気づいていく。
まわりの大学の先生などの協力で何とか映画は完成する。
クメールルージュの時代は、映画監督や俳優などの文化人といわれる人は
粛清の対象となりほとんど生きていないといわれている。
この映画の母親役の女優さんはその数少ない生き残りだそうである。
廃墟のような映画館、蓮池のある寺院などはすべて、
オールロケで撮られた映画でもあるそうだ。
ちょっと辛い映画でもあるけれど、映画の最後のどんでん返しを見て、
やっぱり映画ってこうだから面白いと思ったものだ。
◇「あなた、その川を渡らないで」
この映画は、韓国のドキュメンタリー映画。
この映画、8月いっぱいで終了の予定だったが、
観客の要望が多く今週から来週にかけて
また再上映となった。
韓国でも始めは小さな規模での上映だったのが
口コミで拡がり大ヒットとなったそうだ。
夫は98才、妻は89才の夫婦の日常を描いただけの内容だが、
慎ましくも互いを思いやり支えながら生きていく姿は美しい。
落ち葉、庭に咲く小菊、緑の山菜、山に咲くツツジ、雨のしずく、積もる雪・・・
田舎の暮らしが自然の移ろいと共に詩情豊かに描かれている。
またこの二人は、ほとんどおそろいの色の韓服を着て
いつも手をつないで歩く。
病院へ行くとき、街へ買い物に出かける時など、何か特別のことがあると
川を渡って出かけるのだ。
最後に川を渡るときは、どちらかがどちらかを見送るときだというのが、
毎日を丁寧に描いている映像からもだんだん想像できてくる。
映画を観て、涙もしっかり流したし、
この夫婦のあまりの仲の良さにこんな相手に出会えるというのは、
奇跡的なことだし、本当に羨ましいことだと思ったものだ。
どの国でもどんな人にでも通じる普遍的な内容なので、
社会の闇をあぶり出すドキュメンタリーにはない
幸福感に浸れること請け合いの映画だ。
*「神様の思し召し」、「あなた、その川を渡らないで」は、来週の金曜日まで
シネマジャック&ベティで上映中です。シアタープノンペンは終了しています。