「桃洞の滝」からの帰り道です。
その日ここへ来ていたのは、ご夫婦が一組、あと男性が2人それに私だけです。ほぼ独り占めと言ってもいいでしょう。東京近辺ではなかなか考えられません。
タクシーのお迎えの時間があるので、あまりゆっくりもしていられず、一番後に着いたのに、一番早く退散することになりました。いいカメラがないので、長居しても始まらないのです。
太陽の日差しが木間から射してきました。
林が明るくなってますますブナの葉が美しいオレンジ色に輝き出しました。
ふかふかの落ち葉の中に木の芽が出ていました。こんなに小さくてもはや紅葉しています。今からこの森は深い雪に閉ざされるのに、こんなに小さくて生きて行けるのでしょうか。ちょっと心配です。
向こうからくる男性に出会いました。ヘルメットをかぶり、ビニル袋を手に持っています。一人の気安さで声をかけてみました。予想通り、キノコ狩りをしている方でした。ここから車で40分くらいの白神山地の方から来たのだそうです。向こうでキノコを採っていると「また来たのか。」と知った人から声がかかるのが面倒で、こっちへ来てみたのだそうです。
額の汗をぬぐいながら、どんなキノコを採っているのか見せてくれました。
「ムキダケ」というのだそうです。シイタケくらいの大きさです。匂いを嗅がしてもらいましたが、シイタケやマツタケのような特別な香りはなく、ブナシメジなんかに近い感じがしました。やはり鍋に入れたりして食べるのだそうです。今の季節はナメコが生えていると言っていました。
「時間があれば食べさせてあげるんだけれど・・・」と言ってはくれたものの、まだ採っている最中でしたからここでお別れ、残念ながらお味見はできませんでした。
そばのブナの木にこんなキノコが生えていましたが、これは毒キノコだから気をつけてと言われました。キノコは外見が似ていても毒キノコというのが結構あるので、知った人としかキノコを採ることはできません。
ついでに白神山地の方は、ユネスコの自然遺産になってから観光客がたくさん訪れてブナの根っこの痛みが激しいという話も聞きました。世界遺産だとかレッテルを貼ってもらうとどっと観光客が押し寄せる傾向がありますが、そんなレッテルがなくても素晴らしいところがたくさんあるのに・・・せめて日本国内では観光業者のツアーに乗っかるだけじゃない自分の旅をしてほしいものだと思います。
鳥獣保護センターに戻ってきました。木の香りがする広々とした空間に大きなブナの木(化学処理されたものだと思います)が立ち、この森にいるクマゲラが巣穴から顔を出しています。本当のクマゲラはすごく用心深い鳥だそうなので、遠くからしか見ることはできないと言われました。一番大きなキツツキですから、そのドラミングの音も大きいそうです。せめてそのドラミングだけでもと思いつつ、・・・また再訪できるかどうかそれが問題です。
タクシーは、午後1時半のお迎えかと思ったら午前中タクシーの御用がかからなかったということでずっと駐車場に停まっていたそうです。
帰りの車の中でカメムシのことが話題になりました。運転手さんは、普段は1ヘクタールの田んぼを耕作していて農閑期の午前中だけでいいからと運転手の仕事をしているそうです。減農薬で耕作しているし、一人では機械を使ってやっとだとか、保護センターにいたカメムシがお米にもついてそれを退治するのが大変だと話していました。カメムシがコメのエキスを取った跡が残ると等級が下がり当然米の値段も下がるのだそうです。
息子さんは、後を継がないと言っているので、自分の代で農業はおしまいだと寂しそうに話していました。ほかの物に比べて米価が安すぎます。これで外国から安いお米が入ってきたら、ますます農家は少なくなっていくでしょう。
昔高校生の頃、地理の学習で米価の逆ザヤについて調べるよう、宿題が出たことがありました。その時に永田町の政府刊行物センターまで行って資料を見つけ、その逆ザヤが何かがわかりました。
その頃は、農家から政府は米を高く買い取って、消費者には安く売る仕組みになっていたので、それを逆ザヤと呼んでいたのです。戦後の食糧難から米を増産させるためそういった政策を取ったのでしょうが、時代を経てそれがなくなったのです。
コメの消費は伸び悩み外国産の安いコメが流入しいよいよ農家は後継者がいなくなってやめざるを得なくなってきているのが現状です。
どの国も食料の安定供給のため、補助金を出しても農業を保護しているのになぜ日本は主食を含め大事な食料に無頓着なのでしょう。
ちょっと脱線しましたが、旅先でいろんな人と話ができると世の中のこともわかりいいものです。
(旅は、続きます)