晩秋の宮城4

 巨釜半造を周遊して元のバス道まで戻ってきました。

 

 唐桑半島にはオルレコースとみちのく潮風トレイルの二つのコースがあります。

 オルレコースは、一番先端の御﨑までバスを使いビジターセンターの辺りをスタート地点にして巨釜半造まで戻ってくる約10キロのコースで、人家の多いバス道を主に歩くルート。

 みちのくトレイルのコースは、半島の中央に位置する唐桑総合支所を起点とし、一番東寄りの海岸に沿った道を御﨑まで下り、帰りはバス道から半島西寄りの海岸線を北上し、唐桑総合支所まで戻るコースとなっています。歩いていないのでわかりませんが、ほぼ倍の約20キロコース。

 

 今回の私が歩むコースは、中途半端で巨釜半造から東寄りの海岸線を下り、帰りは御﨑からバスに乗って民宿のある高石浜まで戻るというものでした。

 

 はじめは、バス道に沿ってリンゴ畑やこの地域独特の「唐桑御殿」と呼ばれる黒光りのする瓦屋根の豪壮な民家を眺めながら歩きました。

 この地域の生業のほとんどが漁業です。昔は、主にマグロを取るために遠くの海まで出かけて行く漁師さんが多く、何か月も帰ってこれないので留守の間も家族をしっかり守りたいという気持ちでこの御殿のような家を作ったそうです。

 今とは違って 遠洋に出かけると収入も多かったと聞きましたので、この地域の「唐桑御殿」は漁師のステイタスだったと思います。漁に出かけている間は、畳一畳もないような狭い場所で寝起きしていたのですから、帰ってきた時に広い座敷で手足を伸ばしてゆっくりとくつろぐことが漁師の夢だったのかもしれません。

 私が歩いたところにもこのタイプの家が多かったのですが、まだ歩いていない西海岸にはたくさんの立派な御殿があるそうです。

 ただ震災の時には、瓦が落ちてきて危険だということで、震災後は重々しい昔の瓦ではなく軽量素材の瓦を使う家も増えてきた聞きました。

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 リンゴ畑               唐桑御殿

 

 どこから東の海岸線の道に入ったらいいのかわからず、人に聞きながら道を探してようやくその道らしい広い道に出ました。歩いている人はいないし、車も通らないのです。

 標識もないのでちょっと不安でしたが小高い山道を登って海の方へ入ると今度はやぶの中をずんずん下ってようやく海が見えるところにやってきました。やぶの中を通る時はいつも大丈夫だろうかとドキドキしますが、この日も湿った地面を通過する時はやはりドキドキしました。抜けた時に見える海の青さはひとしおです。深く切れ込んだ入り江にはたくさんの赤とんぼが群舞していました。

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 風もなく暖かかったのでこの木に座ろうかと思ったら、先客がいました。アカトンボが10匹以上日向ぼっこをしていたのです。晩秋のつかの間の出会いの場だったのでしょう。

 この道を歩いて「神の倉の津波石」を見てその巨大な姿を写し撮りたいと思っていたのですが、見つかりませんでした。途中一か所だけ海岸の工事をしていて入れないところがあったので、聞いてみればよかったと後悔しました。

 津波で海の底から引き揚げられたという石です。津波の持つ想像もつかないエネルギーが形として残されているのです。

 

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  そうこうしているうちに御﨑まで到着です。この赤い鳥居のようなものがオルレのスタート地点です。本当は、ビジターセンターに入りたかったのですが、ちょうど休日で願いは叶いませんでした。

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 「御﨑神社」です。自然を相手にしている漁業が盛んな地域なので、神社の数はたくさんあるらしいですが、この「御﨑神社」は、歴史も古くこの地域の多くの人の信仰を集めている神社です。

 

 

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 御﨑をぐるっと回れるハイキングコースがあるのでめぐってみました。

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 鯨塚と書いてあります。このあたりでもクジラ漁が盛んだったのでしょう。

 右は、御﨑の灯台です。今は無人灯台です。塗り替えたばかりのようで空の青と白のコントラストが美しかったです。

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  東側へ回ると大きな岩礁になっていました。千畳敷きと言われるくらい大きな岩が続いています。近くに「八叟曳(はっそうびき)」という説明板がありました。御﨑神社の祭神がこの千畳敷の岩に船をつけて上陸したといわれています。長さ50ⅿ、幅30ⅿもある岩です。

 これは一部分です。ここでこの岩をスケッチしていたので、やはり一時間もすると体が冷たくなってしまいました。

 

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 陽沼(おぬま)           陰沼(ひぬま}

 さらに回るとなぜか色が違う水が溜まっているところがありました。陽沼の方がイザナギ、陰沼の方がイザナミが鎮座しているといわれています。沼と名前が付いているだけで実際は、海の水が流入しているのだそうです。隣り合わせに位置しているのに色が違うのが不思議でした。不思議なことは、神様のせいにしておけばいいのでしょう。

 

 御﨑漁港近くのバス停から帰途につきました。歩いた距離はおそらく12,3キロというところでしょうか。それでもなんとか10キロはクリアーできたことで、今度は西側を歩きたいなと思えました。脚にトラブルを抱えているので、とりあえず歩けたことで自信になりました。

 

 その日の宿の夕食です。

 一人のためにわざわざ気仙沼の市場へ行っていたら赤字だと思うくらい素材が豊富なので、「ご自分で獲ってくるのですか?」とお聞きしたら、「「巨釜・半造」の辺りまで出かけて獲ってきますよ。」とのこと。

 

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 この日、食べたいと思っていたものが出ました。

 いわゆる「ハーモニカ」と言われるものです。カジキマグロのひれのところにあるものでカジキの生から一つしか獲れない、まさに気仙沼でしかお目にかかれない貴重な部分です。これをダイコンといっしょに煮付けてありました。骨と骨の間の身はやわらかくふわっとしています。

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  後から揚げたてを持ってきてくれたものが、マグロの顎の骨の部分だそうです。あらかじめ味をつけておいたものに衣を付けて揚げたもの。まさに珍味。骨に着いた身は美味しいです。

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  新潟県村上市に行った時は、私たちがふだん食べないような鮭のいろんな部分をご馳走として出してくれましたが、昔から地方では、食べられるものは何であれ料理していただくという姿勢が貫かれているなということを今回も感じてどれもありがたく頂きました。

 (つづく)