初夏の浜中町の旅 その9

 ここでの滞在も最後の日はカヌーに乗ることになっていた。

 相変わらず曇った朝だが雨は降りそうもない。車の上にカヌーを2台乗せ出発。

 先日訪ねた霧多布湿原センターへ行く道を進む。途中の橋の脇の駐車スペースに車を停めそこで、カヌーを下した。

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 橋の下に小さな階段状の降り口があって、そこからカヌーを川に乗せる。

 カヌーに乗るのは3回目だ。以前乗ったことがあるカヌーはもう少し軽かったような記憶だが、それはもう20年くらい前なので年を取って筋力が落ちたということだろうか。

 口には出さなかったが、私としては重くてたいへんだった。

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 パドルの動かし方をおさらいして出発。右と左の腕の力の差があるのでどうしても曲がってしまうが、岸にぶつかっても大したことはない。カヌーは水に近い分自然との一体感があっていつ乗ってもいいなと思う。パドリングが下手なので、どうしても宿主には追いつけない。

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 ちょっと川幅が広くなったところで、茂みから出てきた鳥が旋回しながら激しく鳴きたてる。「怪しいやつが来ているぞ。早く出て行け。」とでも言っているようだ。

 宿主に「あれはアカアシシギだよ。」と教えてもらい、写真を撮ろうとカメラを構えるまでの間にカヌーが進んでしまい、いざ撮ろうとした時は後ろ斜めになってやっと姿が入ったという感じだった。

 わざわざ高いところに乗って威嚇しているのだ。

 

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 東京港野鳥公園で見たことがあるのは、キアシシギアオアシシギアカアシシギは初認だ。

 私たちのほかにも侵入者がいた。カラスだ。追い払おうと必死な様子がうかがえたので、おそらく茂みの中で抱卵中なのだろう。カラスよりもずっと体が小さいのに親は偉大だ。

 動く乗り物に乗っていると写真を撮るのが難しい。ボケボケだが、初めてなので残しておく。オオジュリン

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 以前は、もう少し河口に近いところまでカヌーで進めたのだそうだが、出入りする漁船の邪魔になるというので、ずっと手前で引き返すことになった。

 本当に1時間もあっという間。琵琶瀬橋に到着してしまった。

 カヌーを持ち上げて車に乗せてから この後どうするか聞かれたが、湿原センターでお昼を食べるので、後は自分で帰ると告げて宿主と分かれた。

 

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 湿原センターで食べたランチ。

 前日ホッキカレーは食べたので、その日はクラムチャウダーとパン、そこまでが普通だろうけれど、珍しいなと思って鮭カレーパンも注文。クラムチャウダーにはあさりと昆布の細切りも入り、鮭も含めて地場産の材料が生きたメニューが嬉しい。

 

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 デザートには、地元の牛乳から作ったアイスクリーム。二つ頼んだのではなく、二つも入っていたのだ。

 それにしても常々少食にしなければと思いつつ、根がいやしいので人の1・5倍食べてしまう。 反省の日々が続く。

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 帰りは、湿原センターの前の道は、湿原を切り裂くように作ったので、道の下には、流れが止まらないようにところどころにトンネルが通してあるそうだ。

 湿原の環境を壊さないよう配慮されていることに感心した。

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 後ろを向いているがノビタキ

 その後ろに見える白いのはワタスゲ

 広い湿原なので、場所場所で植生が違うし、育ち方もまちまち。この辺りのはまだ丸い。

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 ホサキシモツケ

 普通のシモツケは表面が丸いが、これは穂のような形に花が咲く。

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 M・Gロードのまっすぐな道をひたすら歩く。T字路があるところまで3キロ、左に曲がって4キロで宿に着く。

 歩道に咲く白い花は、いわゆるこちらのヒメジョオンとかではなく、全部ノコギリソウ。ちょっとしたすきまにもたくましく生える。

 

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 宿の前まで来ると、湿原の中にエゾシカが2頭。しばらくこちらのようすを見ていたが、そのまま奥の方へ入って行った。

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(つづく)

初夏の浜中町の旅 その8

 朝起きてみたら、やっぱり曇っていた。朝日が見えるわけでもなかったが、前の晩、宿主に裏の海へ行ってみたらと勧められていたので、出かけてみた。

 宿の前の道を右手に300mくらい行くと湿原の間に車が通れるくらいの道ができている。その道を堤防に向かって200mくらい歩くと海である。

 

 途中、私が知っている数少ない鳥、コチドリを見つけた。もしかしたらこの姿は御取込み中だったのかもしれない。コチドリは、川原の石があるようなところに巣を作るというのでまさにここは繁殖の適地のような気がする。刺激をしないようそうっと離れた。

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 堤防を上り、砂浜へ下りると、見慣れた砂植物。しばらく茅ヶ崎にも行っていないので、なんだか懐かしい。

 

1 ハマボウフウ              2 ハマエンドウ

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3 ケカモノハシ              4 ハマニガナ

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5センダイハギ             6?

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※ 1は、ハマボウフウだと思われるがそれにしては横に這うというより上にのびているのでシシウドの仲間かもしれない。

  5のセンダイハギは、茅ヶ崎辺りでは見られなかったので海浜植物というより北の    方の植物かもしれない。

  6は、見たことがあるが名前がわからない。

 

  ここで見える海は、北太平洋の海だ。やはり海霧でかすんでいる。

 昨日見た海は琵琶瀬湾、ここは浜中湾になる。

 ずっと北の方まで長い砂浜が続いている。

 

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  波打ち際に大型のカモメが2羽エサを物色していた。

 右側のは、これ以上開かないというくらい嘴を拡げて貝を挟んでいる。

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  どこへ持って行くというのだろうか。おそらく昨日も一昨日も食べたホッキガイのような気がする。悪食といわれるカモメだが、北寄貝(ホッキガイ)とは美食ではないか。

 

 浜にはたくさんの海藻が打ち上げられているが、中には昆布も流れ着いている。しばらく見ていると、北の方から昆布の山を集めている人が軽トラックでやってきた。

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 車を降りて昆布の山を脇に抱えるようにして海の中へざぶざぶと入っていく。海の水で砂を洗い落としているようだ。

 

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 この辺りは、日本の中でも一番夜明けが早いところだ。おそらく4時ごろにはここへやってきて広い砂浜に流れ着いた昆布を集めていたのだろう。

 軽トラに洗った昆布を積み上げ 通り過ぎて行くのを見送った。

 朝食の時に、宿主にこの話をしたら昆布を拾うのもちゃんと縄張りが決まっていて誰でもが取っていいわけではないのだそうである。

 

 

 

 

初夏の浜中町の旅 その7

 2日目の夕食

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 この日は、たっぷり刺身丼と肉厚の昆布と豚肉の煮物。

 鮭とイクラとホッキとオヒョウ(白身)と聞いたつもりだが、うろ覚え

 昆布で出汁をよく取るが、たまにおでんに入れるくらいで昆布はあまり好きな食材ではなかった。だが、この日食べた昆布の美味しさには驚かされた。肉厚なのに柔らかく噛むとほろっとする。豚肉は、去年まで飼っていた豚の肉を冷凍保存していたものだそうで、全然肉の臭みがなく、柔らかい。これも驚き。昆布と肉のうま味が絡んでいる。

 この日を境に持ち帰った刻んだ昆布や早煮え昆布を使って、いろんな料理に挑戦している。繊維質も多くてお腹の調子も整えてくれる。

 

 この宿の主は、去年まで豚や鶏も自分のうちで飼っていたのだそうだ。今年は、畑仕事だけにしているようだが、それも有機栽培にこだわり、その野菜が宿の朝食にも出てきた。(気温が低いので、まだあまり大きく成長していない)

 発酵食にこだわっているので、味噌も自家製、ヨーグルトも自家製。家に住みつく常在菌を殺さないように育てているそうだ。

 

 したがって、コロナ禍でも玄関を入る時には特別なスプレーがあってそれを使ってアルコール消毒はしないように言われ、排水も菌が分解するので備え付けの石鹸やシャンプー以外の物を使わない約束になっている。アルコール消毒をしないといられない人は不向きだとホームページにも書かれている。私は、逆に興味津津でこの宿を選んだ。

 

 北海道の民宿のあれこれや様々な話を夕飯後にほかのお客さんたちと一緒にする。どこか昔のユースホステルのようだ。

 今は、コロナ禍でお客さんは少ないが宿主は「五人娘」という名のお酒を飲みながら実に楽し気に話をする。私は、呑めないが話を聞くのは楽しくてうまく混ぜてもらう。

 

 映画でも有名になったリンゴ栽培の木村さんが開いている農の学校へ宿主が参加している話も聞かせてくれた。今年は、拠点になっている余市でブドウの栽培に取り組んでいるとのこと。民宿の仕事が閑な時に遙々通っているのだそうだ。

 私の友人が去年挑戦してうまくいかなかったと言っていた「不耕起栽培」の話は、特に興味深かった。表面から20cmと50cmのところが同じ温度になるように、麦を植えて根を延ばし、その横に大豆を蒔き、そして植えたい作物を蒔くという方法まで教えてくれた。

 

 そして化学肥料の話。食糧増産と言いながら、世界中で化学肥料を使ってきたが、その窒素肥料の半分は、空気中に出てしまい、わずかだけが使われるという話も興味深かった。使われない窒素が環境破壊を引き起こし、地球温暖化を進める大きな原因にもなっているという話は衝撃的だった。

 SDGsが言われて久しくなるが、なぜそんな恐ろしいことが世間に流布しないのか不思議だが、儲け話に踊らされている世の中には浸透しないのだろう。今さえ良ければは、どこにもはびこっている。

 

 こんな難しい話だけでなく、サッポロビールが出している「クラシック」という銘柄は、道内だけの出荷で本州にはないのだとか。帰ってから探してみたが、それは本当だった。

 コンビニがこの町に3軒あるらしいが、いずれも「セイコーマート」。セブンイレブンやローソンやファミリーマートはないとか。少なくとも神奈川県にはない。

 そうこうしているうちに夜も更け、二時間はあっという間に過ぎていく。

 

 

 (つづく)

初夏の浜中町の旅 その6

琵琶瀬展望台

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 翌日の朝食時、宿主は今日と明日の天気予報を見比べて、行動日程を立ててくれた。 今日は、車で連れて行くから琵琶瀬の展望台、そこから下りて琵琶瀬の野鳥公園、そして琵琶瀬木道と仲ノ浜木道を散策するということでどうかと提案があった。

 

 上の写真は、琵琶瀬展望台。霧多布湿原を見渡せる絶好の展望を誇る。北側は、晴れていたら青い空、蛇行する川、湿原に広がるお花畑、その向こうに森が見える。南側は、切り立った崖と深い海が見渡せ、雄大な景色が広がる。

 

 ところがこの日も霧が立ち込め、ここは高台のため風が強くてすごく寒い。

 この日の朝6時くらいの気温が10度くらいだったから食堂ではストーブに火を入れたと宿主のお連れ合いが話していたのを思い出した。

 長そでのシャツにゴアテックスのウインドブレーカーを着こんでも寒くて荷物になると思って中に着こむフリースを持ってこなかったのを悔やんだ。あまり寒くて、美しい景色を堪能するどころでなく、車へ戻りそそくさと下へ降りることになった。

 今のこの35度に迫る暑さも決して好きではないが、寒さよりはまだ耐えられる。道東の夏の寒さは聞きしに勝るものがあった。

 

 ノビタキ

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 野鳥公園に下りて一回りした時に見つけた唯一の野鳥。

 ここには、海水が入り込む汽水域を好むアッケシソウも生えているらしいが、秋にならないと赤くならないので遠くからでは見つけられなかった。
 寒さゆえにゆっくりと観察もせず、次の木道にある「やちぼうずカフェ」で車を降ろしてもらった。カフェの中でゆっくり温まって人心地ついてから琵琶瀬木道を歩く。

 琵琶瀬木道

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 木道の終点の方から木道の入口を見る。正面左にある茶色の建物がインフォメーションを兼ねた「やちぼうずカフェ」。

 

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 道東には釧路にも根室にもいくつもの湿原があるが、中でもこの霧多布湿原は「花の湿原」と呼ばれるくらい様々な花に彩られる。

 この写真の中にも3つの花が見える。オレンジ色の「エゾカンゾウ、薄い青紫の「ヒオオギアヤメ」、それに咲き始めた赤紫の「ノハナショウブ

 

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 木道の南側に残っていたワタスゲだ。

 ラジオで「ワタスゲ」が湿原を埋め尽くしている」という情報を得てから、3週間が経過していたので、「スズメの毛槍」というかわいい名前が付いているボンボンからだいぶ伸びきったワタゲを風になびかせていた。

 

 やちぼうずカフェを基点にして北側に作ってあるのが「仲ノ浜木道」。3本の木道のまわりに拡がる植生が少しずつ違う。仲ノ浜木道では遠くまでエゾカンゾウが咲きそろうのがみられた。エゾカンゾウも一日花だから、本当に次から次へと咲いてはしぼんでいく花はこの湿原中でいくつあるのかと想像を絶するほどの数でしばし呆然となる。   今、一番たくさん咲いている花である。

 エゾカンゾウの群落

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 エゾカンゾウのように数多く咲いているわけではないが、木道の両側を見て行くと、本当に様々な花が咲いている。厳しい冬の寒さを乗り越えて初夏に咲きそろう花は逞しくてしかも美しい。

 名前がわかっているものだけ書いておく。

 シコタンキンポウゲ         シオガマギク

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                  オオカサモチ か エゾのシシウド

                   どちらにしてもセリ科の植物なので、

                   キアゲハの幼虫がいるのもうなずける     

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ヤナギトラノオ           エゾスカシユリ

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  仲ノ浜木道の終点のハマナス。これも一日花だけれどもバラ科の花だけあって甘い香りを漂わせている。海辺の貴婦人である。

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  仲ノ浜木道から道路に出て、お昼を食べるためやちぼうずカフェへ戻る。湿原を眺めながらの贅沢なランチだ。

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 前日湿原センターで食べそこなった「ホッキカレー」を頂く。見えますか?ホッキ。デザートは、この町で生産された「飲むヨーグルト」。

 地元の食材を使ったメニューがいい!

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  湿原センターもこのカフェもナショナルトラスト運動を担っている。

 因みに認定NPO法人霧多布湿原ナショナルトラストは、この自然環境を未来に残すことを目的に活動している団体である。

 民有地の借り上げ、壊れてしまった地域環境の再生、木道などの修理、環境教育、エコツアーの実施、地域産品の紹介などをやって、霧多布湿原のファンを全国に増やそうと頑張っている。

 ホッキカレーを食べ、Tシャツ、昆布などを買うことでちょっと協力で来たかなあ・・・・

 (つづく)

初夏の浜中町の旅 その5

 昼抜きで昆布ソフトしか食べられなかったので、この日の夕食は待ち遠しかった。おまけに6キロほど歩けばよかったはずなのに迷ってしまったので、たぶん8キロ以上歩いた気がする。お風呂に先に入れてもらい、しばらく横になっていた。

 午後7時、階下より「夕食の支度ができました。」との声。食堂のドアを開けてパッと目に飛び込んだのが、赤い花咲ガニ。今の季節は花咲ガニのシーズンなのだ。

 

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 白菜と豆腐とエノキが入ったカニ汁だ。話に聞くだけで実際に食べたことはなかったので赤い色のカニが食べられるというだけで心が躍った。

 

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 そしてお刺身。この日はホッキガイサクラマスマグロ

 ホッキガイは、浜で自ら獲ったものらしい。茹でてすぐに冷凍したと聞いた。若い頃寿司屋で数年バイトをしていたので、茹で方とかもプロに仕込まれているので、本格的なんだそうだ。前日の駅弁には1個分しか入っていなかったけれど。この日は、3個分くらいの大盤振る舞い。

 サクラマスも私は初めてだ。鮭とは違って脂が繊細なのかとろっともっちりそんな感じの刺身だ。マグロだけは、冷凍したものでなく、その日釧路に上がったマグロだそうだ。魚屋でこういう出物があると買ってくると言っていた。その希少なマグロももっちりしていて美味しかった。

 

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 この日のご飯は、ホッキご飯だった。ホッキガイのお出汁が浸みていて風味よく

「よかったらおかわりして。」と言われたとたん、炊飯器のところまで立って行ってご飯をおかわりしていた。

 食べ物は大事だ。一日目にして、再び浜中へ来ることがあったらここに泊まろうと心の中で決めていた。

 ここ「霧多布里」(きりたっぷり)という民宿は、今年40周年を迎える宿で決してこぎれいな建物ではないが、リピーターの男性客が多いのも頷ける。

 (つづく)

初夏の浜中町の旅 その4

 エゾカンゾウゼンテイカ

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 バスに乗り、霧多布岬の入口までやってきた。遠くから見る岬は、丘の上は平らで道を確かめもせず、エゾカンゾウヒオウギアヤメを見つけながら歩いて行った。

 カンゾウといえば関東の野山に咲くヤブカンゾウが浮かんでくるので、花はもっと中心部分がぐちゃっとした感じかと思ってたが、このエゾカンゾウというのは、まるでニッコウキスゲと同じ。どこがちがうのかよくはわからない。

 

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 ちょっと先まで行くと、右に「アゼチの岬」と標識があるのを見つけ、道をまちがえたことに気付く。霧多布岬は反対側だ。舗装もされていない道を左へ向かった。草原に続く小道を行くと、下は断崖になっている。

 左前方にうっすらと見えるのがそうかもしれないと思うと遠くて絶望的になる。道の続きを辿ると浜へ出た。

 

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 小舟が数隻停まっていた。そのうちの一つで仕事をしている人に声をかけ、霧多布岬へ行く道を教えてもらった。

 この舟は、コンブ漁の舟だそうだ。ビニールの袋を被っているのがモーターで、小さな船には不似合いなほど大きい。ちょうど、そのモーターの整備を頼まれているのだとのこと。

 「若い人は、隣のうちで大きなモーターをつけるとうちのも大きなのにしてくれなければ、コンブ漁を継がないというらしいんだよ。親も大変だ。」

 と、見ず知らずの私にこぼす。

 

 6月末に解禁になるコンブ漁。午前5時前に一斉に港を出て猛スピードで漁場へ向かう画像をみると、まるで競艇かと見間違うほどの迫力で漁場へ向かうのがわかる。本物を見たかったけれど、今回は天気が悪くて、私が帰る日のコンブ漁が中止になり、見られなかった。

 薄く左に見えているのがやはり霧多布岬だった。浜からまた丘へ上がりそこから右へと道を辿る。

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 砂利が敷かれている広場は、「干場」(かんば)と言って、採ってきた来た昆布を干す場所だ。採ってきたらすぐに干さないとならないので、天気がいい日でないと漁ができないらしい。

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 岬の上の平らなところは草地になっていて、馬が放牧されている。何が美味しいのかわからないが、草はより取り見取り。

 ここでも高山で咲くような植物に出逢い、のんびりとしているせいか野鳥まで目の前に現れた。ノゴマののどの赤は、忘れられない。

 

 アオジ                 ノゴマ

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  紆余曲折を経て、予定時間をはるかにオーバーしてようやく岬へ辿り着けた。午後になりようやく少し陽が射してきて灯台の赤い部分が見えだした。霧の中でかすかに見えるところが霧多布らしい。

※ 霧多布岬は、観光用の俗名で 正式には、湯沸岬(とうふつみさき)

 

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 灯台もいいのだが、もう一つのお目当ては、この断崖の下に棲むラッコだ。定位置にいつもいるわけではないらしく、浜でモーター整備をしていた人は、昨日は、浜の右側の岩場に来ていたと言っていたので、今日はどうだろうかとドキドキしながら進んだ。

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 この日は幸運なことに灯台へ向かう左側の断崖の下に、ラッコの親子がいた。私のカメラだとこれが精いっぱい。それでも頭が二つ見えるので、親子らしいことがわかる。  現在北海道では、ラッコは離島のみで確認されている。繁殖しているところまで人が見られるのは 霧多布岬=湯沸岬 ここだけのようだ。

 

 後からの知識だが、ラッコはアラスカラッコ、カルフォルニアラッコ、アジアラッコと大きく3つに分けられるとか。その中でアジアラッコは一番大きいのだそうだ。ラッコが減ってしまったのは、毛皮を取るために乱獲したせいだという。西洋人が遙々千島列島まで来て獲ったというのだから驚く。

 

 子どもは生まれて半年を過ぎる頃になると、親別れしなくてはならないという。突然母親がいなくなった子どもは、1キロ先まで聞こえるくらい大きな声で一日鳴き暮らすのだそうである。動物の自然な営みなのだろうが、何とも心が痛くなる。

 

 特定営利法人エトピリカ村では、柵を越えたり、大きな音を出したりしないよう観察の心得をパンフレットにして知らせている。ラッコは安全を保てないと感じたとたんどこかへ棲み処を変えてしまう可能性があるからだ。

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 お昼ご飯にありつけなかったので、バス停がある岬の入口「ゆうゆ温泉」まで戻ってきて、昆布ソフトを食べた。甘いものとしょっぱいものを加えると美味しいものだが、このソフトも昆布の粉末とスプーン代わりの昆布の切れ端で味わい深かった。
 (つづく)

 

初夏の浜中町の旅 その3

 二日目、窓から見る湿原は白いベールに包まれている。

 朝食に下りていくと、宿主が先に伝えておいたここで見たいもの、やりたいことと天気予報を照らし合わせて行動日程を考えてくれていた。

 このあたりへ来る人は、ほとんどが車なので世話入らずだが、私は珍しく徒歩旅行なのでバスの便を考えてくれているのだ。まず、町内バスはウイークデーのみ、土日は、前日の夕方までにバスに代わるタクシーに連絡をして乗せてもらうしか手段がない。

 この日は金曜日なので、3日間のうち唯一町内バスが使える日だ。ということで、午前中は霧多布湿原センターへ行き、午後は岬の入口までバスが行くので霧多布岬へ行くのはどうかということになった。

 何せ一番近いバス停まで3キロおよそ45分かかる。そこから町内バスに乗る。町全体の地理感覚がつかめないので話を聞いても霧の中で雲をつかむような話だ。朝食後、3キロ先の新川十字路というバス停まで車で送ってもらった。

 

 霧多布湿原センター

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 四番沢という小さな川のそばにある。三階の窓から下に拡がる湿原を見渡せる。カフェがあるのでお昼を食べながら、あるいはお茶を飲みながら眺望を楽しめる。3階から見える西側の風景。海のそばまで湿原で、右側にうっすらと見える島は、「ケンボッキ島」(今は無人島だが、昔ムツゴロウさんが動物と一緒に住んでいたと聞く。)けっこう大きな島だ。

 

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 この日は、館内を一回りしてからすぐ前にある「やちぼうず木道」を歩いた。ゆっくり歩いても20分くらいの短い木道だ。

 

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 「やちぼうず」ってなに?

 真ん中に見えている枯草が垂れさがって上の方は、緑の葉が茂っているのが「やちぼうず」。スゲ類などの植物が冬の凍結で株ごと持ち上がり、春の雪解け水によって根元がえぐられることの繰り返しで形成されたもの。これは、道東の湿原にはよく見られるそうだ。

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 木道沿いに見えた花たちを紹介。

 エゾフウロ                 フタマタイチゲ

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 本州の高山帯にもこれと似たハクサンフウロが有名だが、エゾフウロは、どこがどう違うのか勉強不足でわからない。いつもはかなげで美しい。

 

 フタマタイチゲは、裏高尾辺りで見られるアズマイチゲとかキクザキイチゲの仲間。茎の付け根から二本に分かれて伸びるのが名の由来。東京の旬は早春3月、北海道の旬は6月だ。

ワスレナグサ                エゾオオヤマハコベ

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 ワスレナグサに似ていると思ったが、ワスレナグサは、園芸種かと思っていたのですごくびっくりした。明治の頃、海外から園芸種として入ってきたそうだが、それが野生化したものらしい。冷涼な気候、湿性地を好むそうなので、ここは彼らにはぴったりの適性地。

 

 ハコベにもびっくり。ギザギザとしたまるでサギ草のような花弁。さぞ素敵な名前が付いているのだろうと学芸員に尋ねると、「ハコベです。」とつれないお言葉。正式名は、「エゾオオヤマハコベ」。つぼみの形を見ると、ああ、やっぱりハコベだ と納得。

 

 クシロハナシノブ

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 最後は、高貴な紫の上。宿主もこの時期一押しの花。花弁も3cm位。どこか桔梗の花にも似て楚々としているが、この辺りの皆さんにもてはやされるアイドルのようだ。名前がどこか演歌にでも出てきそうではないか。「クシロハナシノブ」お見知りおきを。

 

  こんなところに油が浮いている とたいていの人が思うらしい。私もええーっと思ったが、隣の立札を見て、湿地の大切さを知り、改めて自然が豊かであることの大切さを学んだ。

 

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 文字が小さいので、簡単に説明すると、油のようなものは実は鉄分なのだそうだ。

 この鉄分が川によって海に運ばれ、海草や藻を育て、植物プランクトンになり海の生き物を育てることになる。ここ浜中は、天然昆布の日本一の生産地といわれているが、この湿地がそれを支えているのかもしれない。

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 バスの時間を1時間見まちがえていて、カフェでゆっくりホッキカレーとアイスクリームと思っていたのに、残念!仕方なくバス停に向かった。

 バスを待っている間に、向いの林から面白い鳴き声が聞こえてきた。「アッキー、アッキー、ジジジジジジジ・・・・」、どうも蝉の鳴き声らしい。

 後日、またセンターを訪ねた折、学芸員に尋ねたら、予想通り「エゾハルゼミ」の鳴き声だっだ。

 「アッキー、アッキー」と本鳴きの前の序の部分が前首相のお連れ合いのお名前のようで、学芸員に聞くときもすらすらと出てきたのが自分でもおかしかった。

 (つづく)