バスに乗り、霧多布岬の入口までやってきた。遠くから見る岬は、丘の上は平らで道を確かめもせず、エゾカンゾウやヒオウギアヤメを見つけながら歩いて行った。
カンゾウといえば関東の野山に咲くヤブカンゾウが浮かんでくるので、花はもっと中心部分がぐちゃっとした感じかと思ってたが、このエゾカンゾウというのは、まるでニッコウキスゲと同じ。どこがちがうのかよくはわからない。
ちょっと先まで行くと、右に「アゼチの岬」と標識があるのを見つけ、道をまちがえたことに気付く。霧多布岬は反対側だ。舗装もされていない道を左へ向かった。草原に続く小道を行くと、下は断崖になっている。
左前方にうっすらと見えるのがそうかもしれないと思うと遠くて絶望的になる。道の続きを辿ると浜へ出た。
小舟が数隻停まっていた。そのうちの一つで仕事をしている人に声をかけ、霧多布岬へ行く道を教えてもらった。
この舟は、コンブ漁の舟だそうだ。ビニールの袋を被っているのがモーターで、小さな船には不似合いなほど大きい。ちょうど、そのモーターの整備を頼まれているのだとのこと。
「若い人は、隣のうちで大きなモーターをつけるとうちのも大きなのにしてくれなければ、コンブ漁を継がないというらしいんだよ。親も大変だ。」
と、見ず知らずの私にこぼす。
6月末に解禁になるコンブ漁。午前5時前に一斉に港を出て猛スピードで漁場へ向かう画像をみると、まるで競艇かと見間違うほどの迫力で漁場へ向かうのがわかる。本物を見たかったけれど、今回は天気が悪くて、私が帰る日のコンブ漁が中止になり、見られなかった。
薄く左に見えているのがやはり霧多布岬だった。浜からまた丘へ上がりそこから右へと道を辿る。
砂利が敷かれている広場は、「干場」(かんば)と言って、採ってきた来た昆布を干す場所だ。採ってきたらすぐに干さないとならないので、天気がいい日でないと漁ができないらしい。
岬の上の平らなところは草地になっていて、馬が放牧されている。何が美味しいのかわからないが、草はより取り見取り。
ここでも高山で咲くような植物に出逢い、のんびりとしているせいか野鳥まで目の前に現れた。ノゴマののどの赤は、忘れられない。
紆余曲折を経て、予定時間をはるかにオーバーしてようやく岬へ辿り着けた。午後になりようやく少し陽が射してきて灯台の赤い部分が見えだした。霧の中でかすかに見えるところが霧多布らしい。
※ 霧多布岬は、観光用の俗名で 正式には、湯沸岬(とうふつみさき)
灯台もいいのだが、もう一つのお目当ては、この断崖の下に棲むラッコだ。定位置にいつもいるわけではないらしく、浜でモーター整備をしていた人は、昨日は、浜の右側の岩場に来ていたと言っていたので、今日はどうだろうかとドキドキしながら進んだ。
この日は幸運なことに灯台へ向かう左側の断崖の下に、ラッコの親子がいた。私のカメラだとこれが精いっぱい。それでも頭が二つ見えるので、親子らしいことがわかる。 現在北海道では、ラッコは離島のみで確認されている。繁殖しているところまで人が見られるのは 霧多布岬=湯沸岬 ここだけのようだ。
後からの知識だが、ラッコはアラスカラッコ、カルフォルニアラッコ、アジアラッコと大きく3つに分けられるとか。その中でアジアラッコは一番大きいのだそうだ。ラッコが減ってしまったのは、毛皮を取るために乱獲したせいだという。西洋人が遙々千島列島まで来て獲ったというのだから驚く。
子どもは生まれて半年を過ぎる頃になると、親別れしなくてはならないという。突然母親がいなくなった子どもは、1キロ先まで聞こえるくらい大きな声で一日鳴き暮らすのだそうである。動物の自然な営みなのだろうが、何とも心が痛くなる。
特定営利法人エトピリカ村では、柵を越えたり、大きな音を出したりしないよう観察の心得をパンフレットにして知らせている。ラッコは安全を保てないと感じたとたんどこかへ棲み処を変えてしまう可能性があるからだ。
お昼ご飯にありつけなかったので、バス停がある岬の入口「ゆうゆ温泉」まで戻ってきて、昆布ソフトを食べた。甘いものとしょっぱいものを加えると美味しいものだが、このソフトも昆布の粉末とスプーン代わりの昆布の切れ端で味わい深かった。
(つづく)