信州の旅その4ー別所温泉

 

 別所温泉は、古くは日本武尊が東征した折に発見されたと言い伝えられ、信州最古の

温泉として、また清少納言枕草子の中に「七久里(ななくり)の湯」という名でも

登場している歴史ある温泉だそうです。その後信州平定のために木曽義仲の軍勢によっ

て古くからの寺院も焼かれたそうですが、後になって塩田北条氏によって多くの寺院が

再建され、別所は「信州の鎌倉」と称されるようになったのだとか。

 

 今回の宿は、「つるや」。別所温泉駅から歩いても10分くらいのところにありま

す。湯川(ゆがわ)という川に沿ったところにありました。やはり江戸時代の元禄から

続いている宿だそうで建物は古いですが、人情あるお接待で気持ちよく過ごせました。

いいお湯で冷えた体も心も温まりました。

 

 翌朝9時ごろ宿を出発しました。角を曲がると「葵の湯」と書かれた暖簾が下がった

外湯の「大湯」がありました。山の方へ向かってゆるやかに登って行くと、温泉街の両

側に佃煮屋さんや小さな食堂、呑屋さんなどローカルな温泉街という佇まいのお店が並

んでいます。

 宿の女将さんが教えてくれた通り「北向観音(きたむきかんのん)」の裏参道があり

ました。

 表参道です。実は、私たちは裏口から入ったので、あとから写した写真です。寺とし

ては珍しく北を向いて立っているのが、ちょうど善光寺の方だというので、両方お参り

するとご利益があると言われています。北向観音は、現世の利益、善光寺は来世の利益

をかなえて下さるそうです。

 私たちは、5月に御開帳の善光寺をお参りしているので、これで両参りが叶ったわけ

できっと何かいいことがあるのではないかとひそかに念じております。

 この日は、曇りがちでしたが、ここからは眼下に塩田平、向こうに信州の山々が望め

ました。

 

 境内にある「愛染カツラ」の木です。樹齢が1200年という古木です。カツラの木

でこんなに太い木を見たのは初めてです。隣に愛染明王を納めてある愛染堂というお堂

があるので、この名がついたと言われています。川口松太郎直木賞をとったという

小説「愛染かつら」は、この木にちなんで書かれたそうです。

 カツラの葉っぱはもうすっかりと黄葉していました。

 この舞台は、「温泉薬師瑠璃殿」。川のそばにあった薬師堂が流され、この位置に建

てられたのは、1809年だそうです。かなり古いので上がることは叶いませんでし

たがふと清水の舞台を想起しました。

 (肝心の観音堂は、前には人が絶えなかったので、つい写真を撮りそこなっていたらしくありません。)

 

 一人外れて裏口の参道の入口にあった、厄除けまんじゅうを製造販売している「島屋

菓子舗」にまんじゅうを買いに行ったときに通った道にあったお地蔵さんです。

 お水をかけてと思って柄杓で汲んだら、湯気の上がった温泉でした。冷たい風の吹く

冬も温かく過ごせて幸せな地蔵さんです。

 

そのまま山すそを辿っていくと、「安楽寺」があります。

 長い石段を上ると、本堂に到着です。両側にシャガが並んでいて、そんなところも鎌

倉を感じさせます。

 この寺のハイライトは、本堂の左にある通用門を抜けてさらに山を登って行ったとき

に見える国宝の「八角三重塔」です。

 

 

 下から見上げただけで、これはすごい!と声が出てしまいます。別所が木曽義仲に焼

かれたときに、この三重塔は火災から辛うじて免れたそうです。平成16年に用材の伐

採年代を調べたところ、1289年と判明。その結果、わが国最古の禅宗様建築である

ことが証明されたそうです。

 

 いつまでも眺めていたいような三重塔でしたが、もう一つ見学したい寺があったので

急ぎました。

 

 安楽寺からさらに北へ進んでいくと、「常楽寺」にたどり着きます。

 ここ「常楽寺」は、天台宗、「安楽寺」は曹洞宗の寺です。今は現存しない「長楽

寺」を含め、「楽」の付く三つの寺があったそうで、名前の由来を調べたい気がしまし

た。

 

 本堂の屋根は、茅葺になっています。これだけでもすごいと思ってしまいますが、こ

こには国の重要文化財の「石造多宝塔」が本堂の裏手にあるそうです。時間の都合で

見てきませんでした。

 本堂の前にあった「御船の松」。低く四方へ広がった枝ぶりが見事な松でした。

 

 これで見て回る予定のお寺巡りが終わったので、別所温泉駅の方へ向かって歩きまし

た。駅までの距離がどれくらいかがわからなかったのですが、歩いてみると意外と近か

ったのでもう少しゆっくりできたかなとちょっと残念な気がしました。

 

 別所温泉は、外湯が三つ、立派な寺もあり見どころが多く、一つ一つゆっくり見る

ためには、半日では無理で一日かけて回りたいところです。さらには、レイラインバス

で回った途中にも、前山寺、龍光院、中禅寺などがあるので、二日かけて回りたいと思

いました。

 

 

 レイラインバスでもう一度塩田平ののんびりした風景を見ながら下之郷まで行

き、別所線で上田に出ました。

 今回戸隠でそばを食べそこなっていたので、駅のすぐそばのそばやさん(よろづや)

でくるみそばを食べました。摺ったくるみがあるとつけ汁に甘みとコクが出てクルミ

そばは私のお気に入りです。

 ここのそばやさんのそばの量は東京あたりの大盛そばよりも多いくらいでびっくりで

す。私は、食べられましたが、残した人もいました。

 とりあえずそばを食べ、竹風堂で栗羊羹や栗かのこを買い込んで信州の旅

を閉めることにしました。

 

 これで信州の旅は終わりです。