10月に入ってから、3度目の旅行だ。
先日逢った親しい友人からは、「遊んでばかりじゃない!」と言われてしまった。
と言っても、自分が計画したのは前回の藤七温泉から始まる東北旅行だけで、ほかの
旅はお付き合いの旅だ。コロナ禍でじっと我慢していたので10月に一気にはじけてしま
ったのだろう。
今回は、信州方面で私のテリトリーではないので、毎年のようにスキー生活をしてい
た絵の仲間が計画したものだ。とはいえ、上田は、3年前これもまた友人と行ったこと
があるので初めてではない。
新幹線だと1時間15分くらいで上田に着いてしまう。朝8時44分に乗車して午前10時ち
ょっと過ぎに到着してしまうので、朝ごはん用のおにぎりを食べているうちについてし
まうのだ。本当にあっけない。あまり簡単に着いてしまうのは旅の情緒が失われるよう
な気がしてならない。
今回は、3人しか来られなかった旅行だが、まだ上田に来たことがない人が一人いた
ので、「やっぱり上田城かね。」と言いながら北西方向へ歩いて行った。駅から北の方
へ登る道は、メインロードだ。日本の各地で地方都市の駅近の店がさびれていくのを見
てきたが、上田も例外ではなく空き店舗がぽつぽつ見える。去年から今年にかけては特
にコロナ禍でその傾向は著しいのだろう。
その日は、ほぼ快晴。空の青に生えて木々の紅葉が鮮やかに映し出される。
今年の紅葉は、時期が遅かったようだが色づきは見事だ。
左手にある大銀杏
右手にあるモミジ
石垣にくっきりとモミジの影が映る。
虎口門の上の櫓に登る。
矢を射るための小さな窓から西の方にある山並みと西櫓と紅葉した木々が見える。特
別な額縁だ。
こちらも特に赤く燃えるモミジの紅葉だ。
お城からさらに北の方へ上がっていくと旧北国街道へぶつかる。紺屋町、柳町と名が
付く古い街並みを見ながら歩いて行く。以前北国街道の宿場町である海野宿へは行った
ことがあるが、ここは私も初めて歩く道だ。
路地の間を抜けていくと格子窓やウダツが残る古い佇まいの家が続く。立ち寄ったの
は、上田に来たことがあるという友人お薦めの店。お店に絵が飾られているという「菱
屋」という味噌屋さんだ。
お客さんが途切れたので店に飾られている絵のことを尋ねると、なんとそのご婦人が
描かれたものだった。お店の仕事の合間に描いていらっしゃるという。左側に飾ら
れていたユリの絵、それから真ん中に飾られていた蓮の花がとても印象に残った。写実
を大事にした絵を描きたいのだとおっしゃっていた。重厚な油彩でただただ感心した。
とてもお店の仕事の合間に描けるような簡素なものではない
私たちは、旅のはじまりなので重い荷物になるお味噌も買わず、ゆず味噌煎餅を頂く
のみで絵を鑑賞させてもらった。
ちょっと図々しい気がしたが、季節季節に絵を取り換えて、お店に来てくださるお客
さんに見てもらうのだ楽しみだということだったので、なんだかほっとした。
菱屋さん
ちょうど角を曲がるところに、「保命水」と看板が立っている水場があった。
ちょうどお水をペットボトルに入れていらっしゃるご婦人がいらしたので、「飲める
のですか?」とお聞きすると、「飲めますよ。」とのこと。
脇にある水路を指さして、「サワガニがいますよ。」と言われたので、屈んで覗くと
保護色になった石の間に1匹のサワガニがいる。私たちが騒がしいので気配を感じて、
隠れてしまった。
このお水を一杯飲ませてもらうと雑味のないまろやかな美味しい水だった。
明治時代、木管を使って引いた簡易水道で、今も街の人がここに水を汲みに来るのだ
という。上田の人は、美味しいコーヒーやお茶が飲めるのだろうと羨ましく思った。
朝遅くにおにぎりを食べたけれども、やっぱりお昼はお昼。「保命水」のすぐ先にあ
やはり古い建物を生かした店構え。
店のテーブルもすごい。何百年もならないとこんなに太い切り口にならないと思われ
る一枚板だ。なんと向い側の人までが遠いこと。
「どんなにたくさんのご馳走でも載りますよ。」と言われているみたいだったが、頼
んだのは、「胚芽そば」のみ。「挽ぐるみそば」を頼んだのだが、もう売り切れだとの
ことで頼んだ「胚芽そば」。値段が500円も高いので、びっくり。胚芽米は知っている
が、胚芽そばは初めて。よく締まった硬めのそばだったが、胚芽の感触はわからなかっ
た。あちこちでそばを食べているが、いろんなそばがあるものだと感心しながら食べ
た。入れ物も変わっていて、脚の付いた塗り物で、お殿様が召し上がる時に使ったのか
と思うようなものだった。
柳町を下ってくると、窓辺に柳町のトレードマークの柳、吊るし柿が風に揺れてい
る。「何のお店だろうね。」と言いながら歩いていると、店先で、容器を洗っているお
兄さんが「パン屋です。」と答えてくれた。
お店は、閉まっていたが、店先に樽を植木鉢に使ってある菊の花が満開だっ
た。樽菊は初めて見た。古い街並みは、歩くだけで心がほっこり和む。
(つづく)