この本は、2002年にフランスで出版されたたった11ページの短い寓話。
日本版には、「茶色の朝」に寄せてということで、
高橋哲哉氏がメッセージを付け加えている。
1980年代末からフランスの統一地方選挙では、極右政党が躍進を続け
2002年には、一種カリスマ的な人物マリー・ルペンが大統領選で
社会党のジョスパンを押さえて2位となり、シラクと一騎打ちとなった。
フランスの国民は、ここで動揺することになる。
このままでは、フランスが「茶色」に染まってしまう。
不安と注意を促すつもりで書いたのがこの「茶色の朝」。
作者のフランク・パブロフは、若い人に手に取ってもらいやすくするために
印税を放棄し、たった1ユーロでこの本を出版したそうだ。
なぜ茶色なのか、
フランスの読者には茶色はナチスの制服の色で
ファシズムを連想させる色として認識されているのだそうだ。
ナチスが台頭してきた時、ドイツは敗戦と経済の崩壊を抱えていた。
そのはけ口に使われたのがユダヤ人排斥。
社会的な不満や不安を隠そうとしたのだ。
今日もドイツのネオナチ、そしてフランスの国民戦線のような極右政党は、
人種差別主義、排外主義を唱えやはり社会不安を煽っている。
何もこれは、ヨーロッパに限ったことではなく、この日本でも。
若い人たちの経済的な格差は広がり、低い雲に押し込められた憂鬱感がある。
しかも、ヘイトスピーチを容認するような空気も漂う。
この話は、二人の青年が街のカフェでの会話から始まる。
「俺」は、飼っていた茶色の猫を処分しなければならなかったと語る。
「俺」は、そのことに驚きもし、胸を痛めるのだが
まわりを見てもだれもそのことで騒ぎ立てる人もいないし、
権威筋がそういうのなら「仕方がない」と諦め、やがてその痛みを忘れていく。
何かを声高に叫ぶわけでもなく、ただ日常が語られていくだけだが
何とも背筋がぞくぞくしてくる。
たった11ページの短い話の中に茶色が充満し
その茶色が自分のまわりにも漏れ出してくるような怖さを感じさせる。
残念ながら、日本では挿絵が加えられ、メッセージも入っているため
1ユーロでは買うことができない。
私は、幸運にも図書館で借りることができた。
今日の都議会選挙の結果は、これからの都政がどうなっていくのか
それも心配だが、有権者が1000万人もいるというのに、投票者数は135万人くらい。
これでも前回の1、5倍だというから驚いた。
( 訂正 昨夜私が見たと思った情報が135万人というのは、期日前投票者数でした。
実際の投票率は、51,28%なので、お詫びして訂正します。)
これだけ騒がれてもなかなか投票行動へ結びつかないことへの危機感は、
何とも不気味だ。