北海道の旅 その9 白老

 白老の宿は、駅から歩いて5分くらいの「haku」というホステル。

 カフェを兼ねた宿で。日本風の旅館だったものをリニューアルした建物で、白が基調

の現代風のおしゃれな建物だ。シングルの部屋、ツインの部屋もあるのだが、申

し込んだ時点でその手の部屋はもう一杯で、ドミトリーしかなかった。

 

 そのドミトリーも女性用の部屋はもう一杯だったので、仕方なく男女混合ドミトリー

となった。ご存じの方もあるだろうが、ドミトリーは、ベッド一つ分のスペースしかな

い蚕棚のような部屋だ。入口にカーテンがあってかろうじてプライバシーが保たれてい

る。

 私が泊ったドミトリー部屋の定員は、9人で棚は2段になっていた。私もぐったり疲

れていたし、ほかの人も部屋に入ればみんなすぐに眠ってしまうのか、話し声はどこか

らも聞こえてこない。

 中腰になって前後に移動しようとして、慣れないうちは上の部屋の床に何回も頭をぶ

つけ痛い思いをしたが、そのうち這って移動できるようになった。

 

 

 1階に共同スペースがあり、キッチンで自炊ができ、机やいすも用意されている。

 お風呂はなくて、3つシャワー室があるのみだ。

 

 1日目は、共同スペースの机ではがきを書いていると

同じ年ごろの東京から来たという女性が

「昼間ウポポイでミニトマトを売っていたので、よかったら食べて。」

と言って皆さんに配っていたので、私もご相伴に預かった。

 

 その方も私と同じでアイヌのことを知りたくて来ていらしたようなので、話が尽きな

かった。私は本当は宿さえ取れたら平取町にある二風谷のコタンを訪ねようと思っ

ていたので、苫小牧からの行き方を教えて差し上げた。翌日は会えなかったので、たぶ

ん二風谷へ行かれたのだろう。

 

 前の日夕食のお弁当を買ったついでに梨を買ったので、朝食べようとキッチンへ降り

たら、2人の中年の男性が朝食をとっていたので剥いた梨を食べてもらった。

 そのお二人は、日曜日の晩仕事が終わった後札幌から車で来たのだとか。ちょいちょ

い道内を車で旅しているようだった。こんな年寄相手にも嫌な顔もせず旅の話を聞かせ

くれた。

 

 今回は、仕方なく泊まったわけだが、見知らぬ人といろんな旅の話ができるのは面白

い。ただし、体をのびのびとできない分、疲労感がぬけなかった。

 1泊素泊まりで3600円。前日のチェックイン時に朝ご飯をリクエストしてお

けば、880円でカフェ仕様の朝食を用意してくれる。(ただし8時半から)

 

 町役場へとつながる中央通りを「屋根のない博物館通り」と呼んで、両側にこの町ゆ

かりの人物や生き物などを彫刻した立体像が展示されている。

 これは、カモメかウミネコか確かめなかったが、そのうちの一つである。

 

 今回は、かなり疲れていて宿の写真が一枚もないし、町を歩き回ることもしなかっ

た。チェックアウトを済ませて、朝書いた絵ハガキの切手を買うために郵便局まで歩

いた。切手を買ってポストに投函し、またもと来た道を駅へと歩いていたら、自転車を

引いたこれも同年輩の女性に声をかけられた。

「おひとりで来られたの?」「どこから?」

 

 私は、気づかなかったけれど、「haku」から出てきたところを見ていらしたよう。

 その女性は、届いたはがきのサイズが大きかったために追加料金が必要だったので郵

便局に払いにいったのだとか。

 

 私が

「白老はいい町ですね。今度来た時には、おいしいお魚が食べたいけど、魚市場も見か

けなかったし、この近くに食べるところがあったら教えて。」

というと、

「もっと西の方に漁師さんがやっている魚屋さんがあるからそこへ行くといいよ。前浜

でとれる新鮮なカレイやカニやタラなんかの魚を売っているのよ。」

 と、教えて下さった。

 

 そして、あろうことか、

「うちへ来てくれたらご馳走するのに。」

 とのお誘い。

(はがきの相手も横浜の方だというので、きっと親近感があったのかも知れない)

 

 それが、社交辞令でも嬉しいが、あまりにも気持ちがにじみ出ていたので本当に有難

くて、有難くて、胸が熱くなった。

 郵便局から駅までのわずか5分ばかりの間だったけれど、この一言で4日間の疲れが

吹き飛んだ。

 

 白老駅に北斗号が入ってきた。重い荷物がちょっぴり軽くなった気がしながら駅を後

にした。

 

 

 ちょっと感激しながらまたお弁当の話。今年は、鉄道○○周年という話がよく聞こえ

てくる。これは、函館開業120周年記念の特別弁当で、材料は北海道産のものを使っ

ているのがみそ。材料が豪華なので、1800円と値段も張るがやっぱりおいしい。

  

 

 見物だけが旅ではない。旅に求めているものは、心の通い合いなんだろう。

 心が通う旅も通わない旅もあるけれど、疲れても疲れても、私はきっとまた旅に出る

だろう。 

 

 これでこの旅の記録は終わりです。長々とお付き合いくださった方、一緒に旅をして

くださった方ありがとうございました。